アスリートストーリー

vol.15 諦めない姿勢が生み出した最後の1本 ~車椅子バスケットボール~

「55-71」――藤本怜央は試合終了後、電光掲示板をじっと見つめていた。
「これが自分たちが目指してきたベスト4にいく可能性のある英国との差か……」
ロンドンパラリンピック・車椅子バスケットボール男子。日本は予選プールを1勝3敗とし、決勝トーナメント進出には至らなかった。アテネ、北京に続いて3大会目の藤本にとっては、自らがエースとして臨んだ初のパラリンピックだっただけに、そこで結果を出すことができなかったことへの悔しさはひとしおだ。だが、自分たちがやってきたことに間違いはないという考えにブレが生じることはなかった。
「今のスタイルが日本のバスケットにとっては一番合っていると思う。それをどう成熟させていくかが今後、世界と戦うには必要だと思う」
終了直後にはエースとしての責任を感じてのことだろう、悔し涙を見せていた藤本だが、インタビューの最後には目にいつもの力強さが戻っていた。

「すみませんでした」
試合後、ミックスゾーンに現れた岩佐義明ヘッドコーチは集まった報道陣に対して謝罪の言葉を口にした。「ベスト4」を目指してきた日本にとって、この試合は絶対に負けられない試合だった。それが気負いになったのか、日本は第1クオーターからシュートミスが相次いだ。逆に英国にはいいようにインサイドを攻められ、徐々に点差が開いていく。試合開始4分ですでに6-13と倍以上のリードを許してしまった。

英国は厳しいプレスをかけ、日本にインサイドでのプレーをなかなかさせてはくれなかった。仕方なくゴールから離れたところでシュートを打つも、それがことごとくリングに嫌われた。さらに、そのリバウンドを奪われ、速攻を決められた。また、英国の厳しいプレスディフェンスに、日本はいつもは絶対にしないようなパスミスや連携ミスを犯した。第2クオーターでは香西宏昭のシュートが決まり始めるも、英国は神がかったように次々とシュートが決まり、第2クオーターを終えた時点で20-43と大差をつけられてしまった。

残り19秒にかける思い

日本にようやくエンジンがかかったのは、最終の第4クオーターだった。香西、藤本の両エースがそれまでの鬱憤を晴らすかのように、シュートを決め、追い上げを図った。最大28点あった差が徐々にうまり、残り約2分半のところで13点差にまで詰めた。途中、スタンドから子供たちの「ディフェンス! ディフェンス!」という声が聞かれると、ベンチの選手たちからも再び威勢のいい声が出始めた。最終クオーターだけを見れば、明らかに日本の流れになっていた。しかし、やはり前半で負った差はあまりにも大きかった。刻々と時間は過ぎていき、徐々に敗戦モードが色濃くなっていった。

それでも「ハヤテジャパン」は最後まで戦う姿勢を貫いた。それが岩佐ヘッドコーチの行動に表れていた。残り19秒で岩佐ヘッドコーチはタイムアウトを取った。その時点でのスコアは53-71。到底、19秒で追いつくことのできる点差ではない。ところが、岩佐ヘッドコーチはホワイトボードで選手たちに細かく指示していたのだ。
「プレスをかけて、少しでも多くオフェンスの機会を増やそうということで戦略的な指示を出しました。選手はもう涙を流しながらやっていました。それでも点差は関係なく、最後の1分、1秒まで全力でやろうと」

果たしてタイムアウト明けにシュートを決めたのは、藤本だった。それは敗戦前のたった1本のシュートかもしれない。考えようによっては、無駄な抵抗である。だが、誰一人諦めることなく全力を出し切った、その証であり、「ハヤテジャパン」の集大成であったのではないか。

「ハヤテジャパン」のベスト4への挑戦は終わった。しかし、5日には9、10位決定戦が残っている。北京パラリンピック以降、築き上げてきたチームワークで、日本らしいスピーディなバスケットを見せてほしい。それでこそ、「これまでやってきたことは間違いではなかった」と言えるはずだ。

(文・斎藤寿子、写真・竹見脩吾)