アスリートストーリー

vol.16 消えることのない挑戦者魂 ~陸上競技・廣道純~
    

4度目のパラリンピック。予選の緊張感は何度味わっても慣れることはない。(写真・竹見脩吾)

    

ロンドンパラリンピック8日目の5日、廣道純は陸上・車いす男子800メートル(T53)決勝に臨んだ。前日の予選では予想外の展開が起こった。各組3着6名は自動的に決勝に進出し、残り2枠は4着以下のタイム順で全体から2人が拾われることになる。当然、廣道は3着以内を考えていた。ところが、結果はまさかの組5着。決勝進出は絶望的かと思われたが、もう1組のレースが予想以上のスローペースとなったために4着以下のタイムが伸びず、奇跡的に8人目として決勝進出を決めたのだ。果たして“トラックの神様”が与えてくれたチャンスをいかすことはできたのか――。

4年前の北京パラリンピックでは、決勝で自己ベストを更新したものの8位、つまり最下位に終わった。途中までは後方から食らいついていき、ラストの直線で加速をして抜いていこうという作戦だったが、前方がダンゴ状態にかたまっていたため、抜きにいくスペースがなかった。もたもたしているうちに、逆に後ろから抜き去られ、結局廣道は、最後にゴールイン。当然、その時の廣道には達成感も満足感も得ることはできなかった。ただただ、何もできなかった悔しさだけが残った。

「ロンドンでは、同じ後悔だけはしまい」

そう心に誓い、決勝のレースに臨んだ。

さらなる進化への糧

号砲とともにスタートから激しいポジション争いが繰り広げられた。だが、そこに廣道は加わってはいない。後ろから2番目の位置につけた廣道は、前から遅れをとらないようにと、必死で車輪を漕ぎ続けた。廣道がマークしていたのは隣のレーンからスタートしていた中国人選手だった。その中国人選手が徐々に前をとらえながら、ラストの直線で勝負をしかけることが予想されたため、自分もそれに倣うかのように、最後に後ろから抜きに行く作戦だったのだ。ところが、前方の内側にはスピードのある選手がかたまっていた。そのため、中国人選手と廣道はトップとの差を詰めることができなかった。

    

北京の反省をいかし、6位入賞。悲願の金メダルはリオまでお預けだ。(写真・竹見脩吾)

ラストの直線に入っても、中国人選手は内側で勝負しようとしていた。しかし、北京での失敗を経験していた廣道は、思い切って外側に出てスピードを上げ、ラストスパートをかけた。

「最後は腕がちぎれるほど、漕ぎますよ」

前日の言葉通り、廣道は余力を尽くして走った。結局、メダルには至らなかったが、2人を抜くことに成功し、6着に入った。

「(メダルには)届かなかったですね。でも、その中でも自分の力を十分に出しきりました。決勝は楽しむことができましたし、冷静にレースの展開も見ながら走ることができたので良かったです。力を出し切っての6着ですので、悔しさしか残らなかった北京とは違って、気持ちよさを感じています」

その一方で、金メダルを狙っていただけに、世界との厚い壁を感じずにはいられないレースとなったことも明かした。

「4年間の成長度合いが足りなかったですね。海外の選手はもっと成長していた。だから、もっと世界との差を詰めておかなければならなかった。6着が今の実力です」

しかし、廣道はこれが自らの限界だとは思っていない。4年後のリオパラリンピックに向け、彼は新たにチャレンジするつもりだ。

「4年後は42歳でしょ? 全然、まだまだいけますよ!」

やる気に満ちたその笑顔には、ベテランの風格と、若手にも負けないエネルギッシュさが感じられた。果たして、彼はどこまで進化するのか。廣道純というランナーから今後も目が離せない。

(文・斎藤寿子、写真・竹見脩吾)