二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.02.24
第4回 パラリンピックは同情なしの真剣勝負
~新しい企業スポーツモデル~(4/4)
二宮: 国内では、「障害者スポーツを純粋にスポーツと受け止める姿勢」が諸外国に比べてまだ薄いと感じています。若い層からも支持されているエイベックス・グループがスポーツとしての魅力を発信していくことで、障害者スポーツへの見方もだいぶ変わってくるのではないでしょうか。
三浦: 実は私自身も田中佳子選手と出会うまでは正直、障害者スポーツに対して「好きな人がやっているんだろうな」という感覚でしかなかったんです。ところが、実際に田中選手の滑りを見て、そのすごさに圧倒されました。「これは正真正銘、スポーツだ」と。障害者スポーツへのイメージがガラリと変わったんです。
二宮: 一般スポーツと障害者スポーツとの間に壁を設けること自体、おかしい。
三浦: そう思います。例えば昨年のバンクーバーパラリンピックでアイススレッジホッケーの日本代表が初めて決勝に進出して、銀メダルを獲得しましたよね。決勝はNHKで生中継されましたが、もう一般のアイスホッケー以上に迫力があるんじゃないかと思うくらいでしたよ。
二宮: パラリンピックを見れば一目瞭然ですが、選手も観客も、障害のあることに同情の目を向けている人はほとんどいません。オリンピック同様、あるのは勝つか負けるか、そしてパフォーマンスの素晴らしさです。
三浦: その通りです。田中選手が言っていたのですが、外国人選手の勝負への執念はすごいそうですね。まさに真剣勝負ですよ。ところが、日本では一般スポーツは文部科学省が管轄しているのに対し、障害者スポーツは厚生労働省が管轄していて、国自体がスポーツというよりもリハビリという捉え方をしています。これでは国民が障害者スポーツをスポーツとして認識しないのも無理はありません。今、我々が取り組んでいることが、20年後、30年後にはそういった国レベルのところにまで結び付けられたならと考えています。
ファン心理をくすぐる"親近感"
二宮: 障害者スポーツがきちんとスポーツとして捉えられるようになるには、何が必要なのでしょう? サポートする立場からのお考えを聞かせてください。
三浦: やはり、一般スポーツと同じように競技や選手への"親近感"ではないでしょうか。例えば、昨年のバンクーバーパラリンピックには、弊社に所属する田中選手と東海将彦選手が出場したのですが、開会式の入場行進やレース当日、2人がテレビ画面に出てきただけで、社内中が盛り上がったんです。ああいうことが増えると、すごく選手が身近に感じられますよね。障害者スポーツ自体がそうだと思うんです。オリンピック同様、パラリンピックのようなグローバルな大会の露出が増えて、より身近に感じられるようになれば、純粋にスポーツとして「見たい」「応援したい」と思うようになってくるはずです。
二宮: ただ、日本ではどうも障害者スポーツをビジネスに結び付けるのは悪だととらえている向きがあります。それでは資金面での支援の輪は広がっていきません。
三浦: それは私たち自身も感じているところなんです。障害者スポーツに限らないのでしょうが、お金が絡んでくると、なんとなく「けしからん」みたいな雰囲気が出てくるんですよね。2008年から障害者アスリートを雇用し始めたにもかかわらず、当初は全面的に打ち出さなかったのは、そのことが懸念されていたからなんです。特に私たちのような障害者スポーツ界では新参者が、いくらポジティブなことをやろうとしても、歪んだ捉え方をされてしまうんです。
二宮: そんな中、これから時代を担う若い層に影響力の大きいエイベックスさんが障害者スポーツのみならず、日本のスポーツ界に新たな風を吹き込んでくれることを期待しています。
三浦: ありがとうございます。私たちの取り組みが、障害者スポーツをリハビリではなく、スポーツとして捉えるきっかけになってくれたらと思っています。
写真の選手は東海将彦(左上)・安直樹(右上)・佐藤圭一(左下)・高田裕士(右下)
写真提供/エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社
(おわり)
<三浦卓広(みうら・たかひろ)>
1965年東京都生まれ。1995年エイベックス・ディー・ディー株式会社(現エイベックス・グループ・ホールディングス)に入社。総務部人事課、総務部企画課長、会長室HRD課長を経て、現在は執行役員総務人事本部長を務める。
(構成・斎藤寿子)