二宮清純の視点

二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線

第1回 アスリート魂に火をつけたリレハンメルでの惨敗

~進化し続けるパラリンピアン~(1/4)

写真:車いすマラソン世界記録保持者の土田和歌子選手。来年のロンドンパラリンピックでは4個目の金メダルを狙う

 土田和歌子は、日本人初の夏冬金メダリストである。リレハンメル大会に続いて出場した長野大会、アイススレッジスピードスケート1000メートル、1500メートルで金メダルを獲得。さらに夏季ではシドニー大会、車いすマラソンで銅メダル、そしてアテネ大会では5000メートルで堂々の金メダルに輝いた。これまで得たメダルの数は実に7個(金3、銀3、銅1)にものぼる。だが、3年前の北京大会、土田は5000メートルで他の選手の転倒に巻き込まれてケガを負い、その後に行なわれた再レースとマラソンを棄権。結局、ゴールすることなく、帰国の途についた。その悔しさを胸に、彼女は今、ロンドンへと走り続けている。37歳にしてなお、進化し続ける土田和歌子。ロンドンでも金メダル候補No.1の呼び声高い彼女の生きざまに、二宮清純が迫った。


二宮: 今年1月にニュージーランドで行なわれたIPC世界選手権ではマラソンで優勝し、来年のロンドンパラリンピックの出場が内定されたそうですね。おめでとうございます。

土田: ありがとうございます。まだ内定ということですので、今後のレースでもしっかりと結果を残したいと思っています。

二宮: リレハンメルから数えると、6回目の出場......すごいですね!

土田: でも、北京は一つもゴールしていませんので、私にとってはあってないようなものなんです。

二宮: 土田さんはもともとアイススレッジスピードスケートの選手としてリレハンメル、長野と出場されました。競技をはじめたきっかけは何だったのでしょう?

土田: 高校2年の時にバイト先の先輩の車に乗っていたところ、スリップ事故に遭って脊髄損傷になりました。それで車椅子生活になったのですが、宣告を受けた時はやっぱり大きなショックを受けましたね。でも、寝たきりのベッドから、廊下をカラフルな車椅子に乗っている方たちが、ビュンビュンとすごい勢いで駆け抜けていくのが見えて、「あぁ、私も早くあんなふうに車椅子に乗れるようになって、元の生活に戻りたい!」と思ったんです。それが障害を受け入れる第一歩でした。そして、入院中にリハビリの一環としてスポーツをやり始めたんです。

写真:中学以降はスポーツをしていなかったが、リハビリで始めた障害者スポーツに強い関心を抱いた二宮: そこでアイススレッジスピードスケートをやり始めたと?

土田: いえ、最初は車椅子バスケットや陸上、水泳などを教えてもらいました。それで、事故から1年後には高校に復学したのですが、「もっとうまくなりたいな」という気持ちが強くなっていて、陸上の都大会に出場したり、いろいろとやるようになっていたんです。そこで知り合った東京都の多摩障害者スポーツセンターの指導員の方から「長野県でアイススレッジの講習会があるけど、やってみない?」と誘われたのがきっかけでした。

二宮: 事故に遭うまではどんなスポーツを?

土田: 幼少期から活発でしたね。マラソンは結構得意だったので、町内のマラソン大会に出たりもしていました。小学生の時は地元のミニバスケットボールクラブにも入っていました。実業団出身のご夫婦が指導しているところで、本格的にやっていたんです。全国大会やアジア大会にも出場するようなチームだったので、指導は厳しかったですね。でも、そこでの経験が「強くなりたい」という気持ちを養ってくれたのかなと思います。

甘くはなかった世界の舞台

二宮: アイススレッジの講習会はいかがでしたか?

土田: 1998年の長野パラリンピックに向けて選手と指導者の育成ということで、講習会が開かれたのですが、滑ってみて、「面白いな」と思いました。そしたら私の滑っている姿を見ていたコーチが「君は柔軟性もあるし、素質もあるから、3カ月後のリレハンメルに出てみないか?」と言ってきたんです。自分でも信じられない話でしたが、せっかくのチャンスだと思って出場することにしました。

二宮: でも、わずか3カ月では厳しいですよね......。

土田: はい、そこからは苦戦の日々でした。まずは競技者としての筋力をつけるところから始めました。東京にはアイススレッジの練習環境はありませんでしたので、長野や山梨に通ったり......。3カ月でできることは全てやりました。でも、開会式さえも楽しむ余裕はもてませんでしたね。レース前の練習の時なんか、周りからの威圧感に圧倒されてしまって、「早く日本に帰りたい」とさえ思っていたんです。結局、最下位に近いくらいの惨敗に終わりました。

二宮: そこで辞めたいとは?

土田: 帰国して最初は「もうスポーツなんかやらない!」と思って、しばらくの間は競技から離れたんです。でも、2、3カ月経つと、「長野パラリンピックに出たい」という気持ちが沸々とわいてきました。それと、リレハンメルの結果が悔しかったんですよね。それで、また挑戦しようと。その思いがあったからこそ、今も競技生活をやり続けられているのかなと思います。

写真:リレハンメル直後は競技から離れたという土田選手(左)。それでも再び競技に戻った彼女には「アスリートとしての素質があった」と二宮清純(右)は語る

(第2回につづく)

<土田和歌子(つちだ・わかこ)プロフィール>
1974年10月15日、東京都生まれ。高校2年時に交通事故で脊髄損傷を負い、車椅子生活となる。翌年の秋にアイススレッジスピードスケートの講習会に参加し、約3カ月後のリレハンメルパラリンピック(1994年)に出場。4年後の長野大会では1500メートル、1000メートルで金メダルに輝き、100メートル、500メートルでは銀メダルを獲得した。その後は陸上競技に転向し、2000年シドニー大会では車いすマラソンで銅メダル、04年アテネ大会では5000メートルで金メダル、マラソンで銀メダルを獲得した。07年にはボストンマラソンで日本人では初めて優勝する。08年北京大会は5000メートルのレース中に転倒し、再レースを断念。マラソンも棄権した。今年4月のボストンマラソンでは5連覇を達成。大分国際車いすマラソン大会では6度の優勝を誇る。サノフィ・アベンティス株式会社所属。

(構成・斎藤寿子)


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二宮 清純(にのみや せいじゅん)

スポーツジャーナリスト。
1960年、愛媛県生まれ。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開。テレビのスポーツニュースや報道番組のコメンテーターとしても活動中。主な著書に「スポーツ名勝負物語」(講談社現代新書)、「プロ野球の一流たち」(講談社現代新書)など。障害者スポーツでは矢野繁樹、成田真由美、国枝慎吾などのノンフィクションを執筆している。

[HP] SPORTS COMMUNICATIONS ~二宮清純責任編集~


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写真:真野嘉久氏

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写真:笠井謙一氏

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写真:河合純一氏

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写真:狩野亮選手写真:マルハン韓裕社長

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写真:中森邦男氏

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写真:森喜朗元首相

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写真:京谷和幸選手

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写真:遠藤隆行選手

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写真:新田佳浩選手写真:荒井秀樹監督


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