二宮清純の視点

二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線

第1回 がむしゃらに突っ走ったロンドンパラリンピック

~"現状打破"掲げる車いすテニスプレーヤー~(1/4)

 「昨日の自分より、今日の自分が勝たなければいけない」という姿勢を貫いてきた眞田卓選手 2012年ロンドンパラリンピックに25歳で初出場した車いすテニス日本代表の眞田卓選手。本格的にパラリンピックを目指してから、約1年で、その切符を手にした逸材である。2014年にはインチョンアジアパラ競技大会では、決勝で世界ナンバー1プレーヤーの国枝慎吾選手に敗れたものの、銀メダルを獲得した。7月27日現在、国際テニス連盟(ITF)世界ランキングは8位と、日本人2番手につけている。日本の車いすテニス界をリードする眞田選手に日の丸を背負う思いを訊いた。


伊藤:リオデジャネイロパラリンピックまで、約1年と迫ってきました。初出場のロンドンパラリンピックからは3年が経ち、現在の世界ランキングは8位。上位の壁は厚いですか?

眞田:ロンドンパラリンピックの時に右肩を痛めていて、大会後、手術をしたんです。1年間のリハビリを経て、海外を転戦する生活に復帰しました。昨年7月にロンドン時のランキング(9位)に追いつき、今の位置まで辿り着いたのですが、トップ10に入ってからは、壁が高くなった気がします。少し足踏みしているような状況ですかね。

二宮:前回のロンドン大会が、初めてのパラリンピック出場でした。シングルスはベスト16、ダブルスではベスト8に入りました。

競技を始めたのは早くないが、強打を武器に世界トップクラスへと駆け上がった 写真/竹見脩吾眞田:当時の私は、パラリンピックを目指すまでの期間が、すごく短かったですね。勤めていた会社のサポートもあり、2011年からロンドンを目指すために海外遠征を本格的にできるようになったんです。社長をはじめ、同僚、先輩の理解がないと車いすテニスの活動ができなかった。本当に感謝していますね。

伊藤:車いすテニスを始めてから、初めて海外にも行ったとお聞きしました。

眞田:はい。本当に人生が劇的に変わりましたね。パラリンピックを目指すことになって、残り1年しかなかったので、迷うこともできなかった、ということも大きかったんじゃないかなと思います。車いすテニスの大会のグレード、サーフェスはどんなものがあるのか、世界にはどんな選手がいるのかも知りませんでした。それをイチから調べ、海外に行って試合に出る。ロンドンパラリンピックまでにいくつ勝てば、出場できるだけのランキングになるとの計算もしました。もし計算通りにいかなかったとしてもいいから、とにかく行こうという気持ちでしたね。

初めて行った海外遠征でのエピソードを聞く二宮清純二宮:前に進むしかない分、がむしゃらに行けたと。

眞田:そうですね。実は元々、人見知りで内気な性格だったんです。英語も最初は全然できませんでした。イエス、ノー、サンキューだけ(笑)。最初のオーストラリアへの海外遠征でこんなことがありました。空港から、大会側が送迎してくれるという話を聞いていたんですが、いつまでたっても誰も来ない。結局、2時間待ったんです。"このままじゃダメだ"と思い、空港内で日本人を探しました。大会の要項を手に「僕はここに行きたいんですけど」と、英語をしゃべれる日本人に手伝ってもらい、なんとか宿泊先のホテルに辿り着きました。自分が変われたきっかけが、そのオーストラリアの大会。そこからは何でも恥ずかしいと思わず、何でもアクティブに行動していくようになりましたね。


【高い意識と目標で臨むリオパラリンピック】

伊藤:パラリンピックを意識し始めたのはいつからですか?

眞田:2010年の日本車いすテニス選抜(日本マスターズ)ですね。初出場し、3位になったんです。大会名称は日本マスターズですが、出場しているのは世界のトッププレーヤーです。そこで世界を意識するようになりましたね。

二宮:元々はパラリンピックを詳しく見ていたわけじゃないとお伺いしました。車いすテニスをはじめてから、世界の頂点を意識するようになったんですね。

眞田:はい。障がい者スポーツで最も注目される大会はパラリンピック。4年に1度の祭典ですし、当時年齢は25歳でした。20代のうちに出ておきたいと強く思っていましたね。

パラリンピックを経験し、感じたことを訊ねる伊藤数子編集長伊藤:見事にそれを実現されたわけですが、パラリンピックという大舞台に立ってみていかがでしたか?

眞田:出場するというところに目標があったので、競技者としては未熟な部分が多かったと思います。がむしゃらに突っ走ってきたものですから、少し準備が他の選手よりは足りなかったのかな、と。それでも幸運なことに、1年で世界ランキングトップ10にまで駆け上がり、何とか出場することができました。しかし、振り返ってみると経験が浅く、見落としてきた部分も多かったという気もしています。

二宮:「未熟」と表現されましたが、逆に言えば「のびしろ」部分が多いと言うこともできますよね。さらにこの先、技術を磨いて、リオパラリンピックではもっと上をと思っているわけですね。

眞田:そうですね。リオでは出場するだけではなく、入賞、メダル獲得を意識しています。それに当たって、まずはケガをしないように意識して、日頃のトレーニングをしています。あとは試合中の気持ちの持って行き方だとか、メンタル面ですね。こういった点が、ロンドンを目指していたころには気づかなかったことです。今はすごく意識しているところではありますね。

(第2回につづく)


<眞田卓(さなだ・たかし)>
1985年6月8日、栃木県生まれ。埼玉トヨペット所属。中学時代、ソフトテニス部に所属した。19歳の時にバイク事故で右ヒザ関節の下を切断。リハビリ時に車いすテニスの存在を知り、退院後に始める。2010年、ランキング上位8人に出場資格が与えられる日本マスターズに出場。12年にはロンドンパラリンピックに出場を果たし、シングルスはベスト16、ダブルスではベスト8の成績を収めた。14年のインチョンアジアパラ競技大会ではシングルスで銀メダルを獲得した。7月20日現在、世界ランキングはシングルス8位、ダブルス10位。

(構成・杉浦泰介)

#1 ロンドンで見つけた課題とリオへの決意




#2 インチョンアジアパラ競技大会 国枝選手との決勝の裏で




#3 車いすテニスとの出合いと最高の環境




#4 眞田選手のテニス道"現状打破"で突き進む




#5 2016年のワールドチームカップ、2020東京への思い 



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二宮 清純(にのみや せいじゅん)

スポーツジャーナリスト。
1960年、愛媛県生まれ。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開。テレビのスポーツニュースや報道番組のコメンテーターとしても活動中。主な著書に「スポーツ名勝負物語」(講談社現代新書)、「プロ野球の一流たち」(講談社現代新書)など。障害者スポーツでは矢野繁樹、成田真由美、国枝慎吾などのノンフィクションを執筆している。

[HP] SPORTS COMMUNICATIONS ~二宮清純責任編集~


"挑戦者たち"への取材にあたって

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写真:河合純一氏

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写真:狩野亮選手写真:マルハン韓裕社長

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写真:中森邦男氏

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