二宮清純の視点

二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線

第1回 自然、自分、相手との戦い

~目標を見据え、無心で射抜く~(1/4)

24歳で競技をスタートし、20年目を迎える現在も第一線を走り続けている。4年後の東京パラリンピックも目指す平澤奈古選手

 リオデジャネイロパラリンピックのアーチェリー日本代表に内定した平澤奈古選手。2004年のアテネパラリンピックで銅メダル、05年の世界選手権では金メダルを獲得するなど、輝かしい実績を残している。しかしその後、北京・ロンドンと2大会連続でパラリンピック出場を逃し、悔し涙を流してきた。それでも昨年11月のアジアパラ選手権で行われた出場枠獲得トーナメントで優勝し、悲願だったリオパラリンピック代表に内定。12年ぶりのパラリンピック出場となるリオ大会での目標、競技への思いを訊いた。

伊藤:今回のゲストはアーチェリー日本代表の平澤奈古選手です。リオデジャネイロパラリンピック代表内定おめでとうございます。

平澤:ありがとうございます。本日は宜しくお願いします。

二宮:アーチェリーには大きく分けて、リカーブとコンパウンドの2種目があります。平澤選手はコンパウンドを主戦としています。リカーブとコンパウンドの違いは?

平澤:コンパウンドの大きな特徴は弓に滑車が付いているところです。その機能を使うことで、リカーブの半分ほどの力で弓を引くことができます。私はアーチェリーをリカーブから始めたのですが、障がいで指が伸びづらいこともあり「コンパウンドに転向した方がいいよ」と周囲から言われていたのです。最初は転向が嫌だったんですが、リカーブのままではパラリンピック出場が難しいだろうという判断もあって、コンパウンドに転向しました。

二宮:コンパウンドの場合、50メートル先の的に向かって矢を放つ。1射ごとの得点は的の真ん中の直径8センチの円に入れば10点。中心から離れるほど9点、8点......と点数は低くなる。10点から9点までが黄色、8~7点が赤、6~5点が青に色分けされていますね。

平澤:パラリンピックレベルの勝負になるとと10点、9点を取り合う勝負になってきます。ここから外してしまうと勝敗に直結します。ですから赤のゾーンに射ってしまうと"終わったな"と。そこからさらに外れた青だと完全なミスショットですね。

時間とともに変化する風や気候との戦いでもある
二宮:なるほど。試合では何本ずつ射つんですか?

平澤:予選では1エンド6本を6エンド、合計36射を2回するんです。その合計得点で決勝トーナメント進出を決めます。決勝トーナメントからは1対1で、3本ずつ5エンドで対戦していくんです。

伊藤:平均的な得点はどのくらいなのでしょうか?

平澤:予選は720点満点ですが、コンパウンド女子のトップ選手は680から690点くらい出しますね。私は660後半ぐらいなので、まだまだですね。

二宮:それでも平均すると1射あたり9点を超えるわけですね。最低でも黄色いゾーンに入れておかないと勝負にならないんですね。

平澤:ええ。なかなか10点に入ってくれないと困ってしまいますね(笑)。



【心身ともにタフさが求められる競技】

伊藤:試合時間はどのくらいかかりますか?

平澤:予選は4分間に6本を射たないといけないルールになっています。だいたい36射でおよそ1時間ですので、72射で合計2時間くらいかかりますね。

集中力を持続するために行っている工夫を訊く二宮清純二宮:それは体力がいりますね。

平澤:はい。あとは集中力の持続。オン・オフの切り替えが大事になってきますね。1エンド6本射ったら得点をつけて矢を抜く間のインターバルがありますから、そこでの気持ちの切り替えが重要になります。

二宮:その間に水分を補給することも?

平澤:そうですね。軽食を摂ったりもします。集中力を保つためにエネルギーは必要ですからね。

伊藤:頭も使うからカロリーも消費しますよね。

平澤:ええ。アーチェリーは簡単にできると思われがちで、他競技の選手で「動けなくなったらアーチェリーやろうかな」と言う人もいるんですが、そんなに甘いものではないんです。長い時間を戦うマラソンのような持久力と集中力の持続が必要なので、見た目よりハードな競技なんです。

二宮:主に屋外でやる競技ですから、雨や風で条件もだいぶ変わってくるでしょう。

平澤:たとえば雨の日は狙う高さも調整し直さないといけません。いつも通りに矢を射っているのにも関わらず、中心から外れていってしまう。それは矢が雨に叩かれて下に落ちてしまうからです。男子選手のように力があれば雨に負けない強い矢を放つこともできるんですが、私は女子の中でも力が弱い方なのでずいぶん下がってしまうんですね。雨が止むとまた矢の軌道も変わってきますから、臨機応変に状況を読みながら戦っています。

自らのショットのみならず、対戦相手や味方の矢の動きを見て風を読むという平澤選手の話に驚く伊藤編集長伊藤:風はどうやって読むのですか?

平澤:的の上に旗が立っていて、その揺れをまず参考にします。ただ、それだけだと的付近の風しかわからない。矢が飛んでいくまでの風、選手自身に吹き付けている風も読まなければいけません。

二宮:風は時々刻々と変化しますから、読むのはひと苦労でしょうね。

平澤:そうですね。射ちながら「矢が右に流れたな」など様子を見て調整しますね。チームで大会に行っている時には、チームメイトと情報交換をすることもありますし、対戦相手が射っている矢の軌道を参考にする場合もあります。

二宮:そういった調整力が必要ですよね。試合前に確認することは多いでしょう。

平澤:はい。いろいろ確認するのですが、練習が終わった後に急に雨が降るなど気象条件が突然変わることもあるので(笑)。それらにいかに対応していくかがアーチェリーの面白さでもあります。自然との戦いであり、自分との戦いであり、相手と戦いなんです。

(第2回につづく)


<平澤奈古(ひらさわ・なこ)>
1972年8月1日、埼玉県生まれ。生まれつき四肢に障がいがある。24歳でアーチェリーを始める。2004年にアテネパラリンピック出場。女子個人(車いすW1/2)で銅メダルを獲得した。翌年の世界選手権では個人、団体で金メダルを手にした。北京、ロンドンパラリンピックには出場できなかったものの、その後も国内外の大会で好成績を収めた。15年11月にアジアパラ選手権で行われた出場枠獲得トーナメントで優勝し、リオデジャネイロパラリンピック日本代表に内定した。株式会社アクト・テクニカルサポート所属。13年7月からはさいたま市教育委員も務める。

(構成・杉浦泰介)




二宮 清純(にのみや せいじゅん)

スポーツジャーナリスト。
1960年、愛媛県生まれ。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開。テレビのスポーツニュースや報道番組のコメンテーターとしても活動中。主な著書に「スポーツ名勝負物語」(講談社現代新書)、「プロ野球の一流たち」(講談社現代新書)など。障害者スポーツでは矢野繁樹、成田真由美、国枝慎吾などのノンフィクションを執筆している。

[HP] SPORTS COMMUNICATIONS ~二宮清純責任編集~


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写真:河合純一氏

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写真:狩野亮選手写真:マルハン韓裕社長

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写真:中森邦男氏

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写真:森喜朗元首相

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