二宮清純の視点

二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線

第1回 音で空間をイメージする

~連覇に懸けるストライカー~(1/4)

ロンドンパラリンピックに続いて世界の頂点を目指す安達阿記子選手

 ロンドンパラリンピックで日本の団体競技で初めて金メダルを獲得した女子ゴールボール。リオデジャネイロパラリンピックで目指す目標は当然連覇である。しかしリオへの切符を掴むまで日本は苦しんだ。各国のレベルアップ、そして日本包囲網が敷かれる厳しい状況の中、昨年11月にアジア・パシフィック最終予選で最後の1枚の切符を勝ち取ってリオ行きを決めた。その最終予選で決勝ゴールを決め、パラリンピック連覇のカギを握るのが、安達阿記子選手だ。ロンドン大会決勝でもゴールを決めた日本が誇るストライカーに想いを訊いた。

伊藤数子(「挑戦者たち」編集長):リオデジャネイロパラリンピック代表決定、おめでとうございます。北京、ロンドン、リオと3回目のパラリンピック出場です。今のお気持ちはいかがでしょうか?

安達阿記子:いよいよだなと感じます。目指すところは世界一なので、しっかり準備をしていきたいと思っています。

二宮清純:前回はロンドンで金メダル。ディフェンディング・チャンピオンとして臨むこのリオ大会は新たに金メダルを「獲りにいく」という気持ちですか、それとも「守らなければいけない」という気持ちですか。

安達:気持ち的には、ロンドンの金メダルはもう過去のことです。そこはリセットして、もう一度世界の頂点を目指すチャレンジャーとして臨みたいと思っています。

ゴールボールで使用するボールの特徴を訊ねる二宮清純二宮:ゴールボールについては、前回金メダルを獲ったことで一般の方にもだいぶ知られるようになってきました。改めて少しお聞きしたいのですが、まずボールはどんなものを使用していますか?

安達:視覚の使えない競技なので音が鳴るようにボールの中に鈴が入っています。
大きさはバスケットボールと同じくらいですが、重さは約2倍の1.25キロあります。とても硬くて、顔に当たると痕が残ったりもします。

伊藤:ボールが当たって肋骨を折った選手もいるとお聞きました。

安達:そういう怪我を防ぐためにユニホームの下にプロテクターをつけています。それでも結構な衝撃がありますね。そのあたりに女子選手が中々増えない理由があるのかもしれません(笑)。でもレクリエーション用の柔らかいボールもありますので、誰でも気軽に楽しめるスポーツです。ぜひ一度体験して欲しいです。

二宮:ボールのスピードは何キロくらい出るのでしょうか?

安達:計ったことがないので、正確な数字はわからないです。ただボール
の速い女子選手ですと、投げてからディフェンスに当たるまでは0.8秒と言われています。男子選手になると、さらにスピードが上がって0.5秒台になります。そのわずかな時間にボールの音に反応して、プレーしています。


【北京とロンドンの違い】

二宮:やはりゴールボールは「音」が命綱のようなところがありますね。会場によって音の聞こえ方が違うことはあるのでしょうか。

安達:はい。例えば会場の広さで音の反響も変わってきます。さらに同じ場所でも、観客席に人が入ることで音が吸収されたように変わったりもするんです。

伊藤:人が音を変化させてしまうんですね。これまで過去2大会のパラリンピックを経験されて、北京とロンドンでは会場の違いはありましたか?

安達:北京パラリンピックの中国戦はすごかったです(笑)。アップの時間は観客の皆さんも声を出せる時間帯なんですが、「加油(頑張れ)」の声援がずっと聞こえていました。そうすると、もう隣にいる仲間の声も聞こえない。

二宮:それでは練習にならないですよね。

安達:はい、ボールを受けるのも大変でした。ただ中国戦はすごい数の観客だったのですが、他の試合になると観客は少なかった。一方で、ロンドンの時はイギリス戦以外でも常に観客席にはたくさんの人がいました。すごく嬉しかったですし、"一般のスポーツと同じような感覚で見てくださっているんだな"と思いました。


「音取り」という独特の練習方法について訊く伊藤数子編集長【チームメイトとの確認が重要】

伊藤:「音取り」という練習をされるんですよね。

安達:はい。音を聞き取るトレーニングのことです。日頃の練習では、相手側のゴールライン(9メートル)の端から端までポイントポイントで音を鳴らしてもらって、イメージを作り上げるんです。"真ん中はここ""端っこはここ"とインプットしていきます。基点となるポイントを抑えて、しっかりと自分の中でイメージを作っていくことが大事なんです。

二宮:大まかには9メートルを3つくらいに分ける感じでしょうか?

安達:そうですね。3メートル刻みで分けることもあれば、1メートル間隔で音を鳴らして覚えることもあります。また投げたボールが相手コートのどの位置に行ったかは、足に当たった音か、手に当たった音かで判断することもあります。

二宮:音で手に当たったか、足に当たったか分かるのですか。

安達:見えていないので100パーセントではありませんが、フッと吸収されるような音だとお腹などの面積の大きいところに当たっている可能性が高い。パチンと弾くような音がしたときは相手のすね当てに当たった可能性が高く、チームメイトと「足だね」と話したりします。

二宮:みんなで「足だよ」「手だよ」と確認し合うと。相手チームの3人うち誰に当たったかもわかるものですか。

安達:はい。正面の音が比較的聞き取りやすいので、自分がつかんだ情報をチームメイトと伝え合います。例えばウィングの選手が「相手のウィングに当たっているよ!」とコート内で声掛けをします。そうやっていろいろな音を判断材料にして、今ボールが相手側のどこにあるかを確認しています。

伊藤:すごい能力ですね。ディフェンス面でも相手のパス回しの声や音を聞いて、どの選手が投げてくるかを判断しているということでしょうか。

安達:その通りですね。それに加えディフェンスには、事前の情報も重要です。例えば、センターの選手がディフェンスやゲームコントロールに専念するチームもあれば、積極的に攻撃に参加するチームもある。海外のチームはいろいろな特徴があるので、事前に情報を頭に入れて試合に臨みます。それを把握したうえで、誰が投げてくるかを聞き取り仲間で声を出し合ってアジャストしていくわけです。

(第2回につづく)

<安達阿記子(あだち・あきこ)>
1983年9月10日、福岡県生まれ。14歳の時に右目に黄斑変性症を発症し、19歳で左目も発症。2006年に国立福岡視覚障害センターへ入所し、ゴールボールに出合う。翌年に日本代表として世界選手権に出場すると、08年の北京パラリンピックにも出場した。12年のロンドンパラリンピックでは初の金メダル獲得に貢献。09年にリーフラス株式会社に入社し、講演会や体験会などの普及活動にも努めている。

(構成・杉浦泰介)




二宮 清純(にのみや せいじゅん)

スポーツジャーナリスト。
1960年、愛媛県生まれ。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開。テレビのスポーツニュースや報道番組のコメンテーターとしても活動中。主な著書に「スポーツ名勝負物語」(講談社現代新書)、「プロ野球の一流たち」(講談社現代新書)など。障害者スポーツでは矢野繁樹、成田真由美、国枝慎吾などのノンフィクションを執筆している。

[HP] SPORTS COMMUNICATIONS ~二宮清純責任編集~


"挑戦者たち"への取材にあたって

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