応援メッセージ


不本意にも浪人することになり、鬱々とした気持ちで予備校に通っていた19歳の夏。ノーシード校である自分の母校が、甲子園の県大会予選でまさかのベスト8進出をしていることを知った。
母校はかつて強豪校だったが、当時は特待生制度も廃止され、監督は野球経験のない人が務めていた。1回戦でシード校に負けるはずの母校が何故か逆転勝ちをした際、不思議な歯車が回りだしたようだ。なんと一度も先取点を取ったことがなく、全試合逆転勝ちをしていたのだ。
たまらず予備校をサボり、ローカルテレビから流れる選手たちを食い入るように見た。自分と1~2歳しか違わない後輩たちが、あきらめず白球にくらいつく様子。四番打者の打率が2割を切る惨状でも、チャンスが来ると不思議につながる打線。結局、母校は、9回ツーアウトまで追い込まれた際も逆転し、「予選全試合逆転勝ち」という異例の形で甲子園出場を決めた。
どんなに追い込まれても勝てることはある、そう実感した瞬間だった。その後、私は大学入試センター試験で信じられない大失敗をしたが、母校の野球部の雄姿を胸に、志望校を落とすことなく二次試験にチャレンジ。逆転で第一志望校に合格した。「挑戦する」という人生のダンスのステップの踏み方がわかった気がした。
ハンディを負った状況で勝利をおさめることは難しい。しかし、厳しい状況をはねのける姿にこそ人々は強く感動し、共感し、明日に向かう糧を得る。ロンドンパラリンピックでどんなドラマが展開されるのか。そして何人の「19歳の私」のような人に前に進む力を与えてくれるのか。今から非常に楽しみである。
<朝比奈一郎(あさひな・いちろう)プロフィール>1973年生まれ。東京大学法学部卒。ハーバード大学行政大学院修士課程修了。97年に通商産業省入省。以来、約14年間にわたって、特殊法人等改革、エネルギー政策、インフラ輸出政策などに携わる。在職中に若手官僚を中心に「新しい霞ヶ関を創る若手の会(NPO法人 プロジェクトK)」を結成。2010年11月に日本の活性化を図るべく青山社中株式会社を起業。現在は、次世代のための政策作り・人材育成などに取り組んでいる。
青山社中株式会社 http://aoyamashachu.com/