二宮清純の視点

二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線

第5回 山積する課題と改善策

~日本障害者スポーツの実相~(5/5)
写真:全国の障害者スポーツセンターの現状について語る中森氏二宮: 今後、障害者スポーツを普及・発展させるために最も必要なことは?

中森: 各都道府県・指定都市が設置した障害者スポーツセンターが、もっと区市町村と連携を図っていくことが必要ではないかと思っています。というのも、さまざまな事情で障害者スポーツセンターを利用できない人も大勢います。例えばセンターから遠く離れた地域の人はなかなか足を運ぶことができないわけです。

二宮: 恩恵を受ける人と受けられない人で差が出てきていると。

中森: はい、そうです。そこで、指導者を地域に派遣して区市町村や障害者の施設などで事業のお手伝いをするとか、そういうことができないかなということを提案しているところです。

二宮: 実際に実施しているところは?

中森: 長野県が効果的にやっているかなという印象ですね。拠点の障害者スポーツセンターが長野市の北部に設置されています。長野県は南北に広く、スポーツセンターから遠い地域に住んでいる人たちは利用することができない。そこで、佐久市と松本市にブランチ(支部)を置いて、そこを拠点にその地域の障害者スポーツの振興を進めています。
 しかし、問題は他の公共の利用施設同様に、多くの障害者スポーツセンターが指定管理者制度の下に置かれているということなんです。

二宮: なぜ、そうなっているのでしょうか。

中森: 運営費用を抑えるという意味があるのでしょう。しかし、都道府県・指定都市の障害者スポーツ施策、つまり行政と一体化しているようなことを、民間企業による入札方式は馴染まないと思うんです。

一般スポーツとの垣根を越えて

二宮: これまでお話をお伺いしたところ、本当にさまざまな壁がありますね。その壁を一つ一つ取り除いていくには、やはり障害者自身が立ち上がって声を発していく必要があるのではないでしょうか?

中森: その通りだと思います。特にスポーツ界では、どうも縦社会という感覚が強いのか、何をするにもまずは我々日本障害者スポーツ協会を通さなければいけないと思っているようなところがあります。しかし、もっと選手たち自身が自主的に行動した方が影響力は大きいと思うんです。
 実際、隣国の韓国では障害者自身が「その仕組みはおかしい」と言ったことで、どんどん改善されていったんです。

二宮: 日本では障害者は表に出にくいというような風土が未だに根強く残っているのでしょうか。

中森: 日本の場合、障害者は年金支給や税金免除など、公的な支援を受けている人が大勢います。だからこそ、国に対して異を唱えるということがなかなかできないのだと思います。

二宮: 「障害者自立支援法」があるのですから、国も障害者が自立することを望んでいると思うのですが......。

中森: スポーツをどうとらえるかということが問題なのだと思います。スポーツにはさまざまな要素があると思うのですが、私は睡眠や食事と同じように、人間が健康で長生きするために欠かせないものだと思っています。例えば、運動を盛んに取り入れている小学校では成績もいい、というような話をよく聞きます。つまり、体を動かすことで、体の他の部分にもいい影響力を及ぼす。特に成長期の子どもにはその影響は大きいと思っております。それは、障害者にとっても同じことが言えるわけです。例えば、車椅子を使用している障害者が適度な運動をしないと、車椅子を持ち上げて車のシートに移動することができなくなる。そうすると車の使用ができなくなる。競技性だけでなく、こうした人間の生活の根幹部分として運動(スポーツ)の必要性をとらえてほしいなと思っています。

二宮: 今、文部科学省では総合型地域スポーツクラブの整備が進められています。この政策には障害者スポーツも含まれているのでしょうか?

中森: 基本的には国民への政策ですから、障害者も対象とされています。しかし、健康につながる医学面の支援について、具体的な配慮はこれからの課題となっています。最近では、東京都が東京オリンピック・パラリンピックの招致活動の一連の流れで、スポーツ振興局を発足させました。そこには、今まで別に行われていた障害者スポーツも含まれるようです。一般スポーツと障害者スポーツの垣根を越えてという意味では、国に先駆けてということで、我々も非常に注目しています。これが成功事例となれば、日本でも障害者スポーツがスポーツとして認められていくようになるのではないかと期待しています。

写真:障害者スポーツの未来に期待する中森氏と二宮清純

(おわり)


<中森邦男(なかもり・くにお)プロフィール>
1953年、大阪府出身。大学卒業後、大阪市長居障害者スポーツセンターに入職し、障害者スポーツ指導員として水泳を教えた。日本障害者水泳連盟の設立に尽力するなど、障害者スポーツの発展に奔走してきた。現在は日本障害者スポーツ協会の指導部・企画情報部部長および日本パラリンピック委員会事務局長を兼任。今年のバンクーバーパラリンピックでは日本選手団団長を務めた。

(構成・斎藤寿子)




二宮 清純(にのみや せいじゅん)

スポーツジャーナリスト。
1960年、愛媛県生まれ。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開。テレビのスポーツニュースや報道番組のコメンテーターとしても活動中。主な著書に「スポーツ名勝負物語」(講談社現代新書)、「プロ野球の一流たち」(講談社現代新書)など。障害者スポーツでは矢野繁樹、成田真由美、国枝慎吾などのノンフィクションを執筆している。

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