二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2018.10.11
前編 "言える化"を目指す
~チーム一丸で新たな組織づくりへ~(前編)
今年8月に行われたウィルチェアーラグビー世界選手権で日本代表は初優勝を果たした。日本は2016年のリオデジャネイロパラリンピックでの銅メダル獲得に続き、国際大会で好成績を残している。いま一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟は中竹竜二副理事長らを中心に組織改革にも着手している最中だ。ラグビー日本代表監督代行を務めた経歴を持つ中竹副理事長に改革への道筋を訊いた。
二宮清純: まずは8月の世界選手権優勝おめでとうございます。
中竹竜二: ありがとうございます。世界選手権の決勝ではリオデジャネイロパラリンピック金メダルのオーストラリアを破っての優勝です。日本の選手の中には心のどこかで"予選で大敗したオーストラリアや6月に開催されたカナダカップ決勝戦で負けたアメリカには勝てない"と思い込んでいた者もいました。その選手の見えない壁を打破できたことはすごく良かった。
二宮: 今、ウィルチェアーラグビー日本代表は上昇気流に乗っています。2020年東京パラリンピックの金メダル獲得への期待が高まっています。
中竹: ええ。私がさらに良かったと感じたのは、そこで選手たちが満足していなかったことです。決勝戦が終わった後、ほとんどの選手と話しました。どの選手も「勝ってうれしいけど、今日の自分のプレーじゃ全然ダメ」と言うんです。「今すぐ帰って練習したい」ということを本気で口にしている選手もいたので、"過信はしていないな"と安心しましたね。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 選手経験があり、ラグビーの指導者としての実績もある中竹さんが日本ウィルチェアーラグビー連盟に関わるようになったきっかけを教えていただけますか?
中竹: ウィルチェアーラグビーとの出合いは日本ラグビー協会リソースコーチである最上紘太氏から「ウィルチェアーラグビーに興味ありますか? 今後必ずラグビーとコラボしていくことになるので、一度観に行きましょうよ」と誘われたのがきっかけです。そんな折、日本ウィルチェアーラグビー連盟がガバナンスの改善を目指すタイミングで僕に話がきたんです。日本障がい者スポーツ協会の髙橋秀文常務理事からは強化とは別にマネジメント面で課題を抱えているとお聞きして、活動し始めました。
伊藤: 日本ウィルチェアーラグビー連盟の高島宏平理事長と中竹副理事長はいずれも起業された方です。パラスポーツを見てきた私たちからすると、起業経験のある方が競技連盟の2トップを務めるのは珍しいことです。
中竹: 昨年7月から日本ウィルチェアーラグビー連盟に参画し、12月に代表理事になりました。まずはパラスポーツに関してド素人だったので関係者に話を聞きながら現状把握からはじめ、今年の7月からは高島を新しく理事長に据えました。彼に全体のマネジメントをメインに財務を担当してもらい、僕は主に強化に専念しています。2人で分担しながら改革を進めていく方針に切り替えました。
【改革の手応え】
二宮: その高島理事長は食品宅配で有名なオイシックス・ラ・大地株式会社の代表取締役社長です。畑違いの人材を据えた理由は?
中竹: 実は僕が彼にお願いして、理事長に就任してもらいました。彼はパラスポーツに全般に興味を抱いており、実際に様々な立場で支援も行っていた経験もある。それに経営者としてのブレない信念も持ち合わせています。まさに適任だと思いました。彼は僕と同い年でもあり、我々の世代が連盟を引っ張っていく役割を担わなければいけないということも頭にありました。
二宮: 手応えは?
中竹: まだまだスタートしたばかりですが、マネジメント面で大きく変わりつつあります。これまで理事会は5、6時間ぐらいかかっていましたが、それを彼が理事長に就任してからは基本的に1時間半で終わらせるようになりました。
伊藤: どういう点が改善されて大幅に時間を短縮できたのでしょう?
中竹: 何が必要か、否かなどの線引きに関して彼はプロフェッショナルです。パラスポーツだけでなく健常者スポーツの団体も、会議の進め方を見直すだけでだいぶ変わると思います。こういった改革が他の団体にもいい影響を及ぼせたらいいなと思っています。
二宮: 日本ウィルチェアーラグビー連盟には、今までのパラスポーツ競技団体にはないようなガバナンスを提示してもらえるんじゃないかと期待しています。
中竹: 担当者が責任を持って自分の判断で動くフレキシブルな組織を目指しています。もちろん個人で判断できない問題は皆で共有する。やらされるよりは自発的に動くような組織にしたい。僕が大事にしているのは、選手もスタッフも自分から発信してアクションを起こすということです。
二宮: 上意下達ではなく、自らが考え、動く組織。魅力的な実験ですね。
中竹: だから選手やスタッフの前で「"言える化"できる組織になりましょう」と話しています。
二宮: "見える化"ではなく?
中竹: "言える化"です。やはり大切なことは遠慮せずに言うべきです。立場や地位が違えば言いにくいということは確かにあります。でも気付くことはそれぞれにあって、誰もが自分の意見を言い合える組織の方がいいと思うんです。日本ウィルチェアーラグビー連盟が"言える化"を実践し、その大切さを社会に発信していきたいと考えています。
(後編につづく)
<中竹竜二(なかたけ・りゅうじ)>
1973年生まれ。福岡県出身。小学1年でラグビーを始める。早稲田大学卒業後、イギリス留学を経て2001年三菱総合研究所に入社。2006年に母校・早稲田大学ラグビー蹴球部の監督に就任し、2007年度から2年連続で全国大学選手権2連覇に導く。その後、20歳以下の日本代表監督、コーチを歴任。2016年にはアジアラグビーチャンピオンシップで日本代表ヘッドコーチ代行として指揮を執った。2017年に日本ウィルチェアーラグビー連盟の副理事長、代表理事を務める。今年7月より再び副理事に就いた。現在は日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター、株式会社TEAMBOX代表取締役を兼任している。
(構成・杉浦泰介)