二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2016.09.01
第1回 パラバドミントンのルールとクラス分け
~パラリンピック初代女王を目指して~(1/5)
4年後の東京パラリンピックから正式競技に採用されるパラバドミントン。そのメダル候補に挙がっているのが右腕に先天性の機能障がいのある鈴木亜弥子選手だ。かつて世界選手権優勝まで上りつめた実力派だが、2010年のアジアパラ競技選手権大会の優勝を最後に一度ラケットを置いた。今年、5年のブランクを経てコートに戻ってきた理由はただ一つ、東京パラリンピックでの金メダル獲得である。強い決意を持ってパラリンピックの初代女王を目指す鈴木選手に、競技への想いを訊いた。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長):今回のゲストはパラバドミントンの鈴木亜弥子選手です。先日のインドネシア国際大会(8月)で優勝されて、ジャカルタから帰国されたばかりということです。優勝おめでとうございます。
鈴木亜弥子:ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
二宮清純:今回のインドネシア国際大会とはどんな大会なのですか?
鈴木:BWF(世界バドミントン連盟)管轄のパラバドミントンの国際大会です。この大会の結果がポイントとして世界ランキングに反映されます。6月のアイルランド国際大会につづいて優勝することができました。
二宮:今大会にはランキング上位の選手も出場していたのでしょうか?
鈴木:いえ。私は世界ランキング6位だったのですが、私より上位の選手は出場していませんでした。また、今大会は私のように上肢に障がいのあるSU5と、下肢に障がいのあるSL4というクラスが同じリーグで争うことになりました。
二宮:エッ、違うクラスの選手と一緒に試合を?
鈴木:ええ。パラバドミントンでは出場者が少ない場合は混合で試合を行うんです。こういったことは珍しくないんですよ。
二宮:2つのクラスでは障がいのある部位は異なりますが、同じ条件で試合をするというわけですね。腕に障がいのあるSU5の方が多少有利になるのでしょうか?
鈴木:でも障がいが軽い方が勝つとは限りません。今大会ではSL4の選手が2位に入りました。SL4は足首が動かないとか、踵を地面につくことができないという比較的軽い障がいの選手が多いです。
二宮:それではパッと見たぐらいではわからないですね。
鈴木:そうなんです。私も決勝の相手は最初見ただけではどこに障がいがあるのかは正直わかりませんでした。同じ足の障がいでもSL3であれば義足を付けている選手が多いので、見た目にもわかるのですが......。
【クラス分けとルールの違い】
伊藤:やはり障がいのクラスが違う人と対戦するのは難しいですか?
鈴木:やりにくいですね。腕に障がいのある選手であれば自分も同じなので、プレーをしていて"この場所に返せばやりにくいだろう"と分かります。でも足に障がいのある選手と戦う場合は経験したことがないので分かりません。「どこを狙えばいいんだろう」と考えながら対戦しています。
二宮:パラバドミントンのクラスについては少し説明していただきましたが、全部で何クラスあるのでしょうか?
鈴木:国際大会では車椅子はWH1、WH2の2つのクラス。それに加えて立位下肢障がいのSL3とSL4、私のクラスである立位上肢障がいのSU5、低身長のSS6の4つあって、計6つのクラスに分けられています。WHとSLについては数字が小さい方が障がいの重いクラスになります。
伊藤:クラスごとにルールの違いはありますか?
鈴木:シングルスでは、WH1とWH2、SL3はコートの横幅が半分になり、ほぼ半面で戦います。車椅子のクラスはネット際もプレーエリア外となります。その他のクラスについてはコートもルールも健常者のバドミントンと変わりません。ダブルスでは車椅子のクラスのみネット際がプレーエリア外ですが、その他のクラスではコートの広さは健常者のバドミントンと同じなんです。
(第2回につづく)
<鈴木亜弥子(すずき・あやこ)>
1987年3月14日、埼玉県生まれ。七十七銀行所属。生まれつき右腕が肩より上がらない障害がある。小学3年でバドミントンを始め、中・高・大学までバドミントン部に所属。インターハイに出場するなど健常者の大会で結果を残してきた。大学3年で初めて障がい者の大会に出場し、2009年の世界選手権と2010年のアジアパラ競技大会で金メダルを獲得した。その後、一度は現役を引退したが、東京パラリンピックを目指して今年復帰すると、2月の日本選手権で優勝。アイルランド、インドネシアと国際大会でも連続優勝を果たした。8月22日現在世界ランキング4位。
(構成・杉浦泰介)