二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2016.01.07
第1回 スキーヤーからサイクリストへ
~冬から夏へ、夢のペダルを漕ぐ~(1/4)
2010年バンクーバーパラリンピックでクロスカントリースキー(視覚障がいクラス)の4種目で入賞した鹿沼由理恵選手。ソチパラリンピックへの出場を目指していたが、左肩のケガで競技を断念せざるを得なくなった。失意の彼女が出合ったのが、自転車(パラサイクリング)だった。2013年からペアを組む田中まい選手とは、2014年ロード世界選手権のタイムトライアルで金メダルを獲得した。リオデジャネイロパラリンピックのメダル候補に挙がっているサイクリストに競技への想いを訊いた。
伊藤:今回のゲストは自転車日本代表の鹿沼由理恵選手です。鹿沼選手は元クロスカントリースキー選手でバンクーバーパラリンピックにも出場されています。そこから自転車競技に転向されたきっかけは?
鹿沼:2011年ころ、スキーの練習中に転倒して、左肩のじん帯を痛めてしまったんです。それでストックをつくのもすごく困難になり、競技転向を余儀なくされたんです。
伊藤:元々、自転車への転向というのは視野にあったのでしょうか。
鹿沼:いえ、ありませんでした。男子の自転車タンデム(2人乗り)競技は、私の通っていた学校の先生がやっていたので知っていたのですが、女子があるとは知りませんでした。カナダのクロスカントリースキー選手から、「女子のタンデムもある」と教えてもらって、日本のパラサイクリング連盟に電話させて頂きました。
二宮:トレーニングで自転車に乗ったことはそれまでなかったんですか?
鹿沼:練習ではなかったですね。子供の頃、遊びで自転車には乗っていましたけど......。
二宮:スキーやスケートの選手は、トレーニングの一環で夏場などに自転車を漕ぐことがあります。通ずるものはあるかもしれませんが、また全然違う競技ですから、最初はご苦労もあったのでは?
鹿沼:逆に未知の世界だったので、あまり戸惑いもなかったんです。乗ってみて、すんなりと自分は入れた形でしたね。
伊藤:クロスカントリーで鍛えたことが生きた部分はありましたか?
鹿沼:そうですね。特に持久力に関しては自信があったので、問題なかったですね。
【チームワークがカギを握る】
二宮:タンデム競技は2人で漕ぐわけですから、息が合わないといけませんよね。呼吸合わせるというか、連携はどのように深めていったんでしょうか?
鹿沼:口で話して、息が合うものだとは実際思っていません。やはり何度も何度も一緒に乗っていく中で、徐々に2人のコンビネーションが自然と生まれてくるような気がします。
伊藤:田中まい選手とペアを組んでから、どのくらいが経ちますか?
鹿沼:2年とちょっとですね。
二宮:その間に2014年8月のロード世界選手権のタイムトライアルで金メダル。2015年3月のトラック世界選手権でも2個のメダルを手にしました。"阿吽の呼吸"になりつつあると。
鹿沼:そうですね。彼女は競輪選手なので、一緒に練習できる期間が限られているんです。しばらく一緒に乗っていないこともあるのですが、乗り始めて10分くらいでも息が合ってくるようになってきたので、手応えは掴んでいます。
二宮:パートナーとの連携はもちろんですが、自転車との相性も勝負のカギを握るところです。メカニックの部分では、タイヤのセッティングも大事になってくるのでは?
鹿沼:そうですね。トラックとロードだとタイヤはやはり違いますし。あと自転車自体も違うので、セッティングは重要ですね。
二宮:自転車競技はチューンアップの技術が求められますよね。
鹿沼:はい。それがまた楽しいんです。メカニックの方、田中選手やスタッフたちと話しながら、徐々に部品を選定していくのも、競技の魅力ですね。
二宮:そういう意味では、チームワークがカギを握ってくる。メカニックの人たちを含めてチームプレーですもんね。これはスキーにも言えることで、ワックスマンの技術も勝敗を大きく左右します。
鹿沼:そうですね。そういう意味では似た点も多いと思います。皆さんの力を集結して戦うというのも醍醐味ですね。
(第2回につづく)
<鹿沼由理恵(かぬま・ゆりえ)>
1981年5月20日、東京都生まれ。生まれつき弱視の障がいがある。2008年、本格的にクロスカントリースキーを始め、10年にバンクーバーパラリンピック出場。クロスカントリー女子リレー5位、バイアスロン7位、クラシカル5キロ8位など計4種目で入賞を果たした。練習中のケガで、スキー競技を断念し、自転車(パラサイクリング)に転向。14年のロード世界選手権タイムトライアルで優勝。15年のトラック世界選手権では3キロ個人追い抜きで銀メダル、タンデムスプリントで銅メダルを獲得した。楽天ソシオビジネス所属。
(構成・杉浦泰介)
※鹿沼選手の練習風景を取材した「Rio,Rio,Rio」も合わせて御覧ください。