二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2017.03.02
第1回 駆け引きが勝負のカギ
~世界で煌めく金髪の卓球王~(1/5)
"金髪の卓球王"の異名を持つパラアスリートがいる。昨年50歳でパラリンピック初出場を果たした、卓球日本代表の吉田信一だ。2015年11月のベルギーOP、12月のコスタリカOPと2大会連続で個人・団体の金メダルを獲得し、リオへの切符を獲得した。2017年1月現在、ITTF(国際卓球連盟)の車いす男子クラス3で世界ランキング23位。現在51歳のベテランに、3年後の東京パラリンピックへの想いを訊いた。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長):今回のゲストはリオデジャネイロパラリンピック日本代表の吉田信一選手です。吉田選手は"金髪の卓球王"と、周囲の方から敬意を持って呼ばれているとお聞きしました。
吉田信一:一昨日ブリーチしてきました(笑)。
二宮清純:金髪にされたきっかけは?
吉田:実は、若作りのためです(笑)。もう51歳になりましたので、黒いと老けて見えますから。
伊藤:車いす卓球のベテラン選手といえば、別所キミヱ選手もいらっしゃいますね。
吉田:そうですね。別所選手は69歳です。上には上がいますね(笑)。
二宮:まずは車いすの卓球についてお伺いしたいと思います。どんな特徴があるのでしょうか?
吉田:スピード感です。車いすの場合、健常者のように卓球台から離れてラリーできません。選手同士の距離が短いので、相手からボールが返る一瞬でコースや回転に反応して打ち返す必要があります。このスピードは健常者の卓球以上に速く、車いすで行う卓球の特徴です。
二宮:ルールでは、健常者の卓球と異なる点はあるのでしょうか?
吉田:コートの大きさや道具の規格は同じです。個人戦のサーブについてはルールが違っていて、必ずエンドラインを通過しなければいけません。逆に言えばサイドラインへボールが抜けたり、バックスピンをかけたボールがネットに戻って触れたり、台上で止まった場合、「レット」となりサーブのやり直しとなります。
二宮:確かに車いすの場合、ラケットの届く範囲に制限もありますからネット際に戻るボールまで対応するのは難しいですね。
吉田:ただし、これはサーブに限るルールなのでラリー中は認められるプレーになります。だからネット際に落ちて手前に戻るロビングボールを打つのも戦術です。そうすれば相手は絶対に届きません。
二宮:それを狙って打てるんですか?
吉田:はい。こういったボールを一つの技術として身に付けるためにトレーニングするのが、私たちパラ選手なんです。この技術を「匠」としてやっているのです。そういった技術を駆使しながらボールを手前と奥に打ち分けて相手と駆け引きをしています。
【ダブルスでの狙いどころ】
二宮:ダブルスではどんな違いがありますか?
吉田:車いすの卓球ではペアが左右に分かれてポジションをとりますが、交互に打たなくてもよいというルールがあります。その点はテニスのダブルスをイメージしていただきたい。しかし、卓球台にあるセンターラインの延長線上から手やラケットが出るのはいいのですが、車いすの一部でもはみ出して打球すると反則となります。
二宮:当然、組んだ選手間に実力差があれば、弱い方が狙われますよね。
吉田:それもひとつの作戦です。あとはダブルスを組んだ経験が浅かったりすれば、連携の穴を突くために基本2人の間を狙います。そこから技術的に劣る選手を終盤や勝負どころで狙うのがセオリーです。
二宮:その裏をかく場合もあると?
吉田:そうですね。たとえば弱い選手ばかりに球を集めていくと、段々ボールに慣れてきてしまう。それで対応できるようになってしまったら、穴がなくなってどちらも狙えなくなる恐れがあります。だからわざと上手い方を狙うこともあるんです。
(第2回につづく)
<吉田信一(よしだ・しんいち)>
1965年12月13日、福島県生まれ。車いす卓球クラス3。17歳の時に交通事故で車いす生活となる。28歳で車いす卓球を始めると、国内外の大会で優勝した。2014年インチョンアジアパラではシングルスベスト8に入り、団体では銅メダルを獲得。2016年にはリオデジャネイロパラリンピックに出場した。世界ランキングは23位(2017年3月現在)。情報通信研究機構卓球部/ディスタンス所属。
(構成・杉浦泰介)