二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2020.08.20
前編 「日本初の雇用ケースを実現」
~eスポーツが広げる雇用のカタチ~(前編)
株式会社ゼネラルパートナーズは障がい者専門の就労支援サービスを展開し、昨年8月に日本で初めてeスポーツ選手のパラアスリート雇用を実現させた。これに大きく尽力した同社at GPコンサルティング室の茅原亮輔氏にeスポーツを通じた障がい者雇用の可能性について訊いた。
二宮清純: 代議士の秘書を務めた後、人材派遣会社にも勤めたと伺いました。ゼネラルパートナーズに勤めるきっかけは?
茅原亮輔: 前職で就労について悩んでいる人たちに出会い、その中には障がいのある人たちがたくさんいました。"何とか力になれないか"と思い、設立当初から障がいのある人の就労支援に特化していたゼネラルパートナーズへの入社を決めたんです。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 2019年8月に2名のeスポーツ選手のパラアスリート雇用を実現しました。その経緯をお聞かせください。
茅原: 我々のクライアントであるBASE株式会社から2018年のはじめに「障がいのあるアスリートを雇用したい」という話をいただいたからです。先方とはどのような競技を希望されているのか、求めるアスリートの人柄などについて話し合いを重ねてきました。
二宮: BASEという企業にマッチする競技がeスポーツだったと?
茅原: そうです。エンジニアが多く、ゲーマーが多い会社でした。話を聞くと、エンジニアを目指すきっかけがゲームとの出合いだったという方もいます。それもあって「eスポーツのアスリートを障がい者雇用の視野に入れてみませんか?」という我々の提案を採用していただきました。
二宮: 主に業務はどういうものが?
茅原: eスポーツが仕事になりますから、プロ選手に近いイメージです。BASEの例をあげるなら、基本は在宅勤務。社外で行うトレーニング、大会やイベント参加は出勤扱いになります。あとは広報活動を自らが担い、メディア対応も行っています。大会やイベントに参加した際には活動レポートを提出します。
二宮: パフォーマンス、成績いかんによっては契約を打ち切られるケースも?
茅原: もちろんあり得ます。そこは企業側もサポート体制を取っていて、メンタルコーチを付けるなど大会で成果を出すための協力を惜しみません。
【1年半かけて実現】
伊藤: 在宅勤務では社員たちとの接点が難しいのでは?
茅原: 社内の多くのコミュニティがチャット上で形成されているため、コミュニケーションを図るのに出社する必要はありません。実際にコミュニティで「大会やイベントに出るので応援よろしくお願いします」とやり取りしながら、動画を配信したり、応援を募ったりしているそうです。これはBASEに限らず、リモートワークが可能な企業なら実現できることだと思います。
伊藤: 今回のケースは、約1年半の歳月をかけて、入社を実現させたと聞きました。雇用される選手も、雇用する企業も慎重に取り組まれていたことが窺えます。
茅原: おっしゃる通りです。eスポーツ選手を雇用するメリットや意義を知っていただくために、先方とは何度もお話させていただきました。採用可否が決定する最終面接の日は、本人面接の前に私が先方に「eスポーツとは」をテーマに30分間プレゼンテーションを行いました。採用が決まった選手の1人は、別の企業からも一般職での内定をもらっていましたが、アスリート雇用という道を選んでくれました。1年半という長い期間を経て、2名の障がいのあるeスポーツ選手の就職が決まりました。
二宮: 茅原さん自身、eスポーツには元々興味があったんですか?
茅原: 正直に言うと、それほどeスポーツに熱中したというわけではないんです。でもそれがデメリットであるとは感じていません。企業側の課題を解決できるのであれば、必ずしも私がeスポーツのプレイヤーである必要はありませんしね。もちろんeスポーツを通じた就労を実現させるために、競技のことはたくさん学びました。
伊藤: eスポーツ選手のアスリート雇用を実現させた後の手応えはいかがでしょうか?
茅原: この事例を皮切りに、もう既に10人弱の方が全国でアスリートとしての就労を実現しています。雇用を希望する企業も増えてきています。まだ手探りなところもありますが、着実に前へ進んでいる実感を持っています。
(後編につづく)
<茅原亮輔(かやはら・りょうすけ)>
株式会社ゼネラルパートナーズat GPコンサルティング室コンサルタント。1985年7月30日、栃木県出身。慶應義塾大学を卒業。代議士秘書を務め、人材派遣会社勤務を経て、2017年に障がい者専門の人材紹介会社である株式会社ゼネラルパートナーズに入社した。翌年、新設された同社のat GPコンサルティング室に勤務し、障がいのある人の雇用支援に尽力した。2019年には日本初となるeスポーツ選手のパラアスリート雇用を実現させた。小・中学時代は野球、高校では柔道に汗を流した。料理が唯一の趣味。
(構成・杉浦泰介)