二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2023.12.14
前編 参加したい団体は排除しない
~個々の長所を生かしたパートナーシップ~(前編)
「P.UNITED」は<パラスポーツ同士、さらには企業との連携など新しい取り組みに挑戦>を行動指針に掲げる、9つのパラスポーツ競技団体による共同プロジェクトだ。代表を務めるNPO法人日本パラ射撃連盟の田中辰美ハイパフォーマンスディレクターに、今後の展望を訊いた。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 今年6月に発足した「P.UNITED」は、9つのパラスポーツ競技団体が、それぞれの強みを生かしながら力を合わせるというプロジェクトです。全く別の競技で手を組むというのが面白いアイデアですね。発足のきっかけは?
田中辰美: 我々にオフィスを貸していただいている日本財団パラサポセンターからこの取り組みへの提案を受け、そこに賛同した日本車いすカーリング協会、日本障害者カヌー協会、日本障がい者乗馬協会、日本パラ射撃連盟、日本身体障害者アーチェリー連盟、日本知的障害者水泳連盟、日本知的障がい者卓球連盟、日本パラ・パワーリフティング連盟、日本パラフェンシング協会の9つの競技団体で始めました。
伊藤: なぜ、この9団体になったのでしょうか?
田中: それぞれが資金不足、それに伴う人材不足という課題を抱えていました。一緒になって取り組んだ方が新しい力を生み出せるんじゃないかと思い、ミーティングを重ね、9団体が一緒にやっていくことなりました。9団体は実にバラエティに富んでいて、車いす競技もあれば、障がいも身体、知的と多様です。加えて夏季競技だけでなく冬季競技も混在する。この多様性こそが我々の強みになると思っています。
二宮清純: プロジェクト名「P.UNITED」のPはパラスポーツの頭文字から取っているのでしょうか?
田中: パラスポーツに限らず、社会を変えていく「Positive」な存在、時にそれを推進する「Power」など、このPには様々な意味と解釈が込められています。新しい取り組みとして、未来に前向きな影響を与えたいという想いを表しています。
【パラスポーツの力】
二宮: プロジェクトの主な内容は?
田中: 「広報」「イベント」「セールス」の3部門です。我々には共生社会の実現という大きな目標があり、そのためにパラスポーツをもっと知ってもらいたいと考えています。活動方針としては、社会を変えていく推進力としてのパラスポーツの力を、イベントや体験会などで楽しみながら知ってもらうこと。パラスポーツ同士のみならず、企業や団体との連携など新しい取り組みにもチャレンジすること。D&I(ダイバーシティ&インクルーシブ)といった社会課題にも9団体らしく多様なアプローチで解決していきたいと思っています。
伊藤: 9団体との共同ということで、イベントや体験会などでも複数競技のコラボが可能ですよね。
田中: おっしゃる通りです。それこそが我々の強み。単一競技とは違うものが生み出せないかと、現在模索中です。
二宮: マンパワーの共有もできますね。
田中: そうですね。それぞれの強みを生かす。例えば広報が上手い団体があれば、実務が得意な者のいる団体もある。足りない部分は補い合えばいいのです。ただ私が所属する日本パラ射撃連盟を含め各団体は、競技関係者が中心となっている。足りない部分は外部からも手を借ります。例えばマーケティングの専門家には、「P.UNITED」の強力な営業マンとして動いていただいています。
伊藤: いずれは9団体から増えていくことも検討していますか?
田中: 参加したいという団体を排除する理由は、ひとつもありません。まずは我々が成功例を示し、環境を整えていく。その仲間が増えていくことで、さらに大きな力になっていけば、うれしいですね。
(後編につづく)
<田中辰美(たなか・たつみ)>
P.UNITED代表。1964年、山口県出身。中学では郷土研究部、高校では美術部と文化部畑を歩み、京都大学入学後ライフル射撃部に入部して射撃競技を始めた。1986年、全関西学生ライフル射撃選手権大会・フリースモールボアライフル三姿勢優勝。山口県代表として国民体育大会多数出場。身体条件を選ばない射撃競技の特性に強い魅力を感じ、1994年から日本障害者スポーツ射撃連盟(現・日本パラ射撃連盟)でボランティアを始める。2004年パラリンピック・アテネ大会監督を始め、多くの国際大会にスタッフとして帯同した。日本パラ射撃連盟では、事務局長を経て2022年度からハイパフォーマンスディレクター。社会福祉士。
P.UNITED
(構成・杉浦泰介)