二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2014.10.09
第1回 健康増進に重要な「未病」という概念
超高齢社会を乗り越えるために ~パラリンピアンがもつノウハウ~(1/4)
2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた取り組みは、東京都や国のみならず、隣接県でも進められている。今年8月、神奈川県では「オリンピック・パラリンピックのための神奈川ビジョン2020」を策定。2020年に神奈川県の魅力を世界に発信するとともに、大会を盛り上げていくための方針が示された。そこで今回は黒岩祐治神奈川県知事をゲストに迎え、オリジナリティにあふれた神奈川県の取り組みについて訊いた。
伊藤: 2020年東京オリンピック・パラリンピックまで、あと6年となりましたが、神奈川県では実にさまざまな取り組みが行なわれています。まずはスポーツに欠かすことのできない健康という視点から、神奈川県が今年1月に発表した「未病を治すかながわ宣言」についてうかがいたいと思います。
黒岩: 神奈川県では、来るべき超高齢社会のための準備を進めています。まずはこちらの年代別人口のグラフ(写真)を見ていただきたいのですが、1970年はきれいなピラミッド型になっています。ところが、2050年ではまったく逆のピラミッドになると予想されています。1970年には最少だった85歳以上の数が、2050年では最多になっている。このグラフで言えることは、現状のシステムではまったく通用しなくなるということです。
二宮: だからこそ、今変える必要があると。
黒岩: そういうことです。我々は2つのアプローチがあると考えました。ひとつは最先端の医療技術。いわゆるIPS細胞を使った再生医療や、ロボット技術を駆使した医工連携、そして医療の高度な情報化などです。そしてもうひとつは、「未病を治す」ということです。この2つを融合させながら、健康寿命を延ばしていこうと。健康寿命さえ延ばしていけば、どれだけ社会が高齢化していっても問題ないわけですからね。
【"平均寿命"よりも"健康寿命"】
伊藤: 日本でも「未病対策」の重要性について徐々に、その認識が広がり始めていますが、まだまだ浸透しているとは言えません。
黒岩: よく「健康」か「病気」かの概念でとらえがちですが、実はその間には「未病」というものがあります。健康な状態から、急に病気になるわけではなく、だんだんと病気に向かっていく過程が必ずある。それこそが「未病」なんです。この未病を治すためには大事な3つの要素があります。「食」「運動」そして「社会交流」です。
二宮: 「未病を治す」という概念は、深刻な状況になるのを防ぐことや遅らせるということ。よく平均寿命が取沙汰されますが、いくら平均寿命が延びても健康寿命が延びなければ、本当の意味で高齢者が「いい人生を送っている」と思える社会にはならないですよね。
黒岩: まさにその通りだと思いますね。
二宮: 「未病を治す」ための要素のひとつに運動が挙げられていますが、これは食欲増進にも、社会交流のきっかけともなります。
黒岩: みんなで集まってラジオ体操をやるだけでも、未病を治すための大きな効果が出てきますよね。
(第2回につづく)
<黒岩祐治(くろいわ・ゆうじ)>
1954年9月26日、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学卒業後、1980年株式会社フジテレビジョンに入社。営業部、報道記者、番組ディレクター、報道キャスターを務める。2009年に退社し、国際医療福祉大学大学院教授に就任。11年3月に辞職し、神奈川県知事選に立候補。初当選し、同年4月、知事に就任した。
(構成・斎藤寿子)