二宮清純の視点

二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線

第3回 最高の準備によって獲得したメダル

~"二足のわらじ" で目指すもの~(3/4)

170720_1.jpg伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 初めてのパラリンピック出場となった北京大会。4×100メートルリレーは失格でした。

多川知希: 第2走者を任された僕のミスです。実は大会までバトンを持ってチームで練習していました。しかし、コールルーム(招集場)に入って、ブラジルに両腕がない選手がおり、レースではバトンを使用しないで次走者の身体に直接タッチすることになったんです。それはルール規則にも書いてあったことなのですが、それを僕らは知らずに当日を迎えてしまった。サブトラックでは他国もバトンの練習をしていたので、まさかバトンがなくなるとは思っていなかったんです。

二宮清純: ルールに記載されているとはいえ、直前で変更となると対応も大変ですよね。

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多川: はい。テイクオーバーゾーンというバトンを渡すゾーン内での次走者へのタッチが間に合わなかったんです。ゾーンを出てからタッチしてしまったため、失格になりました。僕自身、初めてのパラリンピックでしたし、動揺もあったのかもしれません。とてもショックでしたが、これがあったからこそ"ロンドンで頑張りたい"との気持ちも強くなりました。ですからロンドンパラリンピックでの4位入賞は大変うれしかったですね。

伊藤: そのロンドンから4年後、リオデジャネイロ大会での男子4×100メートルリレーでは銅メダルを手にします。私はとても感動しました。ただ、多川選手は「ちょっと棚ぼただった」とおっしゃっていましたね。

多川: 僕らも走る前のメンバー表を見た時にはアメリカ、ブラジル、ドイツという強豪国がいたので、実力的には4位と捉えていました。その中で僕らはベストを尽くすしかないですし、上位を狙うためにはまず失敗しないことが絶対条件でした。まずは最低でも4位、そして日本記録更新を目指して戦いました。走り終わった瞬間は4番目にゴールしたので、"やっぱりか"と。悔しい思いはもちろんありましたが、"仕方がない"と割り切った部分もありました。ところがレース後、「もしかしたらアメリカが失格になるかもしれません」との情報が入ったんです。実際に、その通りになり銅メダル。失格になったアメリカは世界記録をマークして1番にゴールしていました。僕も知っている選手がいたので、正直心が痛かったです。

二宮: リレーはバトンパスのミスで失格になることも少なくありません。北京五輪4×100メートルリレーでは多くの国がバトンミスで脱落し、日本が銅メダル(のちにジャマイカが失格になったため、銀メダルに繰り上げ)を獲得しました。

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多川: リレーは何が起こるかわからない種目でもあります。そこは観ている人が楽しめるところでもありますし、僕らとしてもチームワークで戦えるのが魅力です。レース前のコールルームも4人で入れるので、心強いですね。


【走順も勝敗のカギ】

二宮: バトンパスは日本のお家芸になりつつあります。走力で劣る部分をテクニックで補っていますよね。日本向きの種目と言えるかもしれませんね。

多川: 海外の選手はバトンパスの練習をあまりしません。個々が速いので、チームというよりは、それぞれで強化している印象があります。ただ4×100メートルリレーは単純に400メートルを4で割っているのではないんです。1人の走者が120メートル走ることもあれば、80メートルしか走らない場合もある。障がいによっては、セオリー通りにいかないこともあります。トラックを左回りに走るので、左足が義足の選手はカーブを走りづらい。上肢障がいの選手は右腕なのか、左腕なのかでコーナーの内側に立つか、外側に立つかも変わってきます。走順のやり繰りはとても考えさせられる種目だと思います。

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二宮: なるほど。リオデジャネイロパラリンピックのメンバーを観ても上肢障がいの選手から、下肢障がいの選手までいます。ルールはあるのですか?

多川: 上肢障がいの選手は最大2人までとされています。4人全員が下肢障がいの選手というオーダーでも構いません。オリンピックと比べてもパラリンピックの方が4選手に走力にバラつきがある気がします。時には1秒近く違う場合もあるので、メンバーによっては走る距離を調整します。だからタッチの練習を重ねることが重要なんです。

二宮: 日本が積み重ねてきた周到の準備がメダルをもたらしたのでしょうね。

多川: ロンドンパラリンピックから世界選手権も含めると、3大会連続で4位でした。メンバーとは"メダル欲しいね"と話しながら、リレーには特に力を入れてきました。今回は"棚ぼた"だったとはいえ、4位と3位とでは大きく違う。とてもうれしい結果でしたね。

伊藤: 多川選手は「チャンスはもらえる位置にいないと得ることはできない」とおっしゃっていました。

多川: そうですね。"棚ぼた"だとしても棚に限りなく近くにいないといけませんから。落ちるのを見ているだけだったら本当に後悔する。それを今回は身を持って感じました。

二宮: パラリンピックは3大会連続でリレーメンバーに選ばれていますが、3年後の東京大会では若手選手もライバルになってくるでしょう。

多川: 僕も段々おじさんになってきちゃいましたから(笑)。若い選手も出てきているので、3年後には何が起こるかわからない。おじさんとしてはしがみついていくしかないですね。

(第4回につづく)

<多川知希(たがわ・ともき)>
1986年2月6日、神奈川県生まれ。T47(上肢切断など)クラス。生まれつき右前腕部が短い障がいがある。神奈川県立希望ケ丘高校-早稲田大学-早稲田大学大学院。東京電力に勤めながら、東京都北区の陸上クラブAC・KITAで活動する。現在は同クラブでキャプテンを務めている。中学で陸上部に入り、競技生活をスタート。早稲田大学在学中の2008年に北京パラリンピックに出場。2012年ロンドンパラリピックでは100メートルで5位、4×100メートルリレーで4位と2種目で入賞を果たした。2014年インチョンアジアパラ競技大会では4×100メートルリレーでの金メダルを含む3個のメダルを手にした。2016年リオデジャネイロパラリンピックでは4×100メートルリレーで銅メダルを獲得した。身長177センチ、体重70キロ。


(構成・杉浦泰介)





二宮 清純(にのみや せいじゅん)

スポーツジャーナリスト。
1960年、愛媛県生まれ。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開。テレビのスポーツニュースや報道番組のコメンテーターとしても活動中。主な著書に「スポーツ名勝負物語」(講談社現代新書)、「プロ野球の一流たち」(講談社現代新書)など。障害者スポーツでは矢野繁樹、成田真由美、国枝慎吾などのノンフィクションを執筆している。

[HP] SPORTS COMMUNICATIONS ~二宮清純責任編集~


"挑戦者たち"への取材にあたって

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写真:狩野亮選手写真:マルハン韓裕社長

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写真:中森邦男氏

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写真:森喜朗元首相

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