二宮清純の視点

二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線

後編 すべての人が活躍する社会へ

~未来へ繋ぐボランティア文化の醸成~(後編)

写真:渡邉一利
二宮清純
: 日本財団ボランティアサポートセンターの目的のひとつ「ボランティア文化醸成」のために、どのような取り組みを行われていますか?

渡邉一利: 一人でも多くの方にボランティアを知っていただきたいといろいろと取り組んでいます。その中で、障がいのある人にもボランティアを「する」側に回れるということを伝えていきたいと考え、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会のボランティア募集の際には手話によるPR動画をつくりました。聴覚に障がいのある方は日本語の習得に難儀し、手話が母語であり、いわば日本語が第二言語である方もいます。そんな場合でも、映像なら情報をスムーズに理解することができる。心の不安を解いてもらうことから始めました。"ボランティアはそんなに難しいことではないよ"と。視覚障がい者や聴覚障がい者向けの大会ボランティア説明会も開催しました。

二宮: 障がいのある人がボランティアをすることへのハードルを下げるということですね。

写真:二宮清純

渡邉: そうです。また、現場での実際のコミュニケーションでも課題がいろいろと出てきますから、そこは日本財団の知見を活用しようと考えています。具体的には、2013年に始めた電話リレーサービスです。手話通訳オペレーターとのテレビ電話による遠隔通話を利用することで、聴覚障がいのある人と健常者とのコミュニケーションをサポートするシステムになります。このシステムを大会ボランティアのオリエンテーション会場にてタブレット端末で活用しようという話を東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と進め、4月から提供を開始しました。

伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 今年1月末に開催された聴覚障がいのある人たちを対象にしたボランティア説明会には約70人もの方が受講されたそうですね。

渡邉: ええ。我々がこの先に何を目指しているかというと、共生社会です。障がいの有無に関わらず、すべての人が活躍できる社会です。2020年東京大会でコンセプトに掲げている「多様性と調和」については、今年10月からの共通研修に向けて現在進めているテキスト制作でも、かなり手厚くテキストに落とし込むようにしています。

写真:渡邉一利二宮: 聴覚に障がいのあるボランティアは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックでどういう役割を担っていくことになるのでしょう?

渡邉: 組織委員会で検討していく部分ですが、まだ具体的な役回りははっきりとは決まっていないと思います。ただその人の持っている能力を十分生かせるポジションを、我々は組織委員会と一緒に考えていきたいと思っています。

二宮: やりがいのある仕事ではある半面、大変でもあります。想定できないこともあるでしょうしね。試行錯誤を繰り返しながら、ベターな答えを導き出していくと。

渡邉: はい。先日、東京・駒沢オリンピック公園陸上競技場で開催されたパラ駅伝には、視覚に障がいのある人にも運営ボランティアとして参加していただきました。いろいろな反省点も見つかりましたが、ここで得た経験を今後に生かしていきたいと思っています。それに今回は障がいのある人と健常者と接する機会を増やしたかった。そういうコミュニケーションを図る場を設けたくて企画しました。

二宮: 確かにお互いを知るいい機会になりますね。加えて今までサポートされる側にいた人たちも、サポートする側に回れるという好循環が生まれます。

渡邉: キーワードは「みんながみんなを支える社会をつくろう」です。いろいろ経験してみて、ノウハウを積んでいく。それを次に生かすようにしています。今はいろいろな実験をやっているような状況です。そこで学習したものを2020年の東京オリンピック・パラリンピック、そしてその先の未来に生かす。日本財団グループのいろいろな事業を通じて、社会に還元していくことが共生社会の形成に繋がっていくと考えています。

【ボランティアの活発化】

写真:伊藤数子伊藤: お話をおうかがいしていると2020年の先の社会を見据えた事業であることがよくわかります。

渡邉: ええ。2060年には65歳以上の人口が全体の約40%になると言われています。また、日本で暮らす外国人の方も増加が予想されます。2020年で蓄積したものが、これからの社会をつくる上でも役に立ってくると思うんです。

二宮: おっしゃるように超高齢社会への備えにもなるでしょう。"2020年東京オリンピック・パラリンピックがあって良かった"と思える大会になればいいですね。

渡邉: そうしないといけませんね。2020年にボランティアとして活躍した方たちが、それぞれのコミュニティに戻ったときにも活躍していただきたい。それが大会後も残していくべきレガシーだと考えています。

二宮: スポーツボランティアの入口はスポーツですが、出口は共生社会に繋がりますよね。そういったことも国民の皆さんに広く浸透するといいですね。

渡邉: そうですね。それも我々の役目だと思っています。我々の関連団体に、日本スポーツボランティアネットワークという組織があります。日本スポーツボランティアネットワークでは、ボランティアの研修会を年間100回以上開催しています。これまで数千人の方が研修を受けられて、一般のボランティア、リーダー、上級リーダー、コーディネーターという4階層に分けられています。ボランティアのポータルサイトも開設していて、その人たちが活躍できるようなマッチングを行っています。

伊藤: ボランティア文化の醸成という点では、今後どういったことをお考えですか?

渡邉: 先ほど申し上げたように11万人を超えるボランティアの方たちが、その後も活躍する場が必要になります。日本スポーツボランティアネットワークのポータルサイトがその情報を提供するひとつの場所になると思うのですが、収まりきらなければ日本財団ボランティアサポートセンターでいろいろなものを追加していきたい。全国のボランティア情報がここにくればわかるという状態にしたいと考えています。ボランティアを希望する人たちと、ボランティアを募集する企業や団体とを結び付け、ボランティア活動を活発化していくような仕組みを、今後はもっと大きくしていこうと思っています。


写真:左から伊藤、渡邉、二宮


(おわり)


<渡邉一利(わたなべ・かずとし)>
日本財団ボランティアサポートセンター理事長。1963年、千葉県出身。早稲田大学卒業後、日本財団に入会し、主に経営企画業務を担い、組織経営論を実践で学ぶ。2005年から笹川スポーツ財団常務理事、2013年から同専務理事を務め、2017年6月から現在まで同理事長。2017年9月、日本財団ボランティアサポートセンター理事長に就任。スポーツ庁スポーツ審議会の健康スポーツ部会長も務め、深謀遠慮、知行合一を旨として「する」「みる」「ささえる」スポーツの振興に携わる。


一般財団法人日本財団ボランティアサポートセンター

(構成・杉浦泰介)




二宮 清純(にのみや せいじゅん)

スポーツジャーナリスト。
1960年、愛媛県生まれ。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開。テレビのスポーツニュースや報道番組のコメンテーターとしても活動中。主な著書に「スポーツ名勝負物語」(講談社現代新書)、「プロ野球の一流たち」(講談社現代新書)など。障害者スポーツでは矢野繁樹、成田真由美、国枝慎吾などのノンフィクションを執筆している。

[HP] SPORTS COMMUNICATIONS ~二宮清純責任編集~


"挑戦者たち"への取材にあたって

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写真:西崎哲男選手

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写真:鈴木大地スポーツ庁長官

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写真:落合啓士選手

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写真:鹿沼由理恵選手

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写真:馳浩文部科学大臣

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写真:及川晋平ヘッドコーチ

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写真:眞田卓選手

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写真:高桑早生選手

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写真:宮本洋一氏

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写真:木村敬一

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写真:橘香織ヘッドコーチ写真:上村知佳選手

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写真:川淵三郎氏

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写真:村尾信尚氏

第51回 舛添要一東京都知事
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写真:舛添要一東京都知事

第50回 黒岩祐治神奈川県知事
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写真:黒岩祐治神奈川県知事

第49回 馳浩衆議院議員
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写真:馳浩衆議院議員

第48回 下村博文文部科学大臣
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写真:下村博文文部科学大臣

第47回 菅義偉内閣官房長官
 世界へ発信 成熟ニッポンの姿 ~2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて~

写真:菅義偉内閣官房長官

第46回 花岡伸和選手(陸上競技)
 ~2020年へ選手強化の展望~

写真:花岡伸和選手

第45回 櫻井智野風氏
 ~科学が引き出す未知の力~

写真:櫻井智野風氏

第44回 田中晃氏
 ~スポーツ中継 新たなるチャレンジ~

写真:田中晃氏

第43回 久保恒造選手(クロスカントリースキー)
 ~悲願の金メダルを目指して~

写真:久保恒造選手

第42回 宮澤保夫氏
 ~「人を排除せず、認め、仲間をつくる」社会へ~

写真:宮澤保夫氏

第41回 鈴木寛氏
 ~2020 オリンピック・パラリンピック開催地決定!招致活動の現場と今後の展望~

写真:鈴木寛氏

第40回 田口亜希選手
 ~射撃に魅せられて~

写真:田口亜希選手

第39回 京谷和幸氏
 ~バスケットマンからサッカー指導者へ~

写真:京谷和幸氏

第38回 佐藤真海選手(陸上競技)
 ~東京がロンドンから学ぶこと~

写真:佐藤真海選手

第37回 鈴木孝幸選手(水泳)
 ~高まるパラリンピックの存在価値~

写真:鈴木孝幸選手

第36回 小倉和夫氏
 ~東京オリンピック・パラリンピック招致に向けて~

写真:小倉和夫氏

第35回 河野一郎氏
 ~日本のスポーツ振興の歩み~

写真:河野一郎氏

第34回 渡邉幸義氏
 ~スポーツの力でビジネスサポート~

写真:渡邉幸義氏

第33回 小宮正江選手、浦田理恵選手
 ~ゴールボールの世界に迫る~

写真:小宮正江選手写真:浦田理恵選手

第32回 秋山里奈選手(水泳)
 ~8年越しの金メダルへの軌跡~

写真:秋山里奈選手

第31回 ロンドンパラリンピック特別企画
写真:秋山里奈選手、車いすバスケ代表チーム、廣道純選手、国枝慎吾選手

第30回 半谷静香選手、小川直也氏 ~震災がもたらした出会い~
写真:半谷静香選手写真:小川直也氏

第29回 岩佐義明氏
 ~世界ベスト4へ"ハヤテジャパン"~

写真:岩佐義明氏

第28回 石井重行氏
 ~"異端児"から"世界トップメーカー"へ~

写真:石井重行氏

第27回 廣道純選手(陸上競技)
 ~日本人初のプロ車椅子ランナー~

写真:廣道純選手

第26回 寺西真人氏(水泳)
 ~知られざるタッピング技術と重要性~

写真:寺西真人氏

第25回 中北浩仁氏(アイススレッジホッケー)
 ~金メダルへの挑戦~

写真:中北浩仁氏

第24回 宮澤保夫氏
 ~排除のないスポーツ立国へ~

写真:宮澤保夫氏

第23回 丸山弘道氏
 ~車いすテニス・コーチングの奥義~

写真:丸山弘道氏

第22回 乙武洋匡氏
 ~未来を担う子どもたちへ~

写真:乙武洋匡氏

第21回 土田和歌子選手(陸上競技)
 ~進化し続けるパラリンピアン~

写真:土田和歌子選手

第20回 石井宏幸選手(ブラインドサッカー)
 ~サッカーに魅せられて~

写真:石井宏幸選手

第19回 臼井二美男氏
 ~義肢装具士が語るスポーツのススメ~

写真:臼井二美男氏

第18回 成田真由美選手
 ~酸いも甘いも味わった水泳人生~

写真:成田真由美選手

第17回 及川晋平選手(車椅子バスケットボール)
 ~"バスケバカ"の人生~

写真:及川晋平選手

第16回 中西麻耶選手(陸上競技)
 ~注目!世界の頂に最も近い日本人ジャンパー~

写真:中西麻耶選手

第15回 根木慎志選手
 ~車椅子バスケットボールと共に~

写真:根木慎志選手

第14回 中村太郎氏
 ~障害者スポーツの未来を語る~

写真:中村太郎氏

第13回 国枝慎吾選手(車いすテニス)
 ~世界のトップであり続けるために~

写真:国枝慎吾選手

第12回 三浦卓広氏
 ~新しい企業スポーツモデル~

写真:三浦卓広氏

第11回 大日方邦子選手(アルペンスキー)
 ~日本スポーツの未来のために~

写真:大日方邦子さん

第10回 田中晃氏
 ~スカパーの挑戦~

写真:田中晃氏

第9回 真野嘉久氏
 ~世界を目指せ! シッティングバレーボール~

写真:真野嘉久氏

第8回 笠井謙一氏
 ~東京都「スポーツ振興局」の試み~

写真:笠井謙一氏

第7回 河合純一氏(水泳)
 ~障害者スポーツの未来を考える~

写真:河合純一氏

第6回 狩野亮選手、マルハン韓裕社長~障害者スポーツと企業のかかわり~
写真:狩野亮選手写真:マルハン韓裕社長

第5回 中森邦男氏
 ~日本障害者スポーツの実相~

写真:中森邦男氏

第4回 森喜朗元首相
 ~国民誰にもスポーツする権利がある~

写真:森喜朗元首相

第3回 京谷和幸選手
 ~車椅子バスケの伝道師~

写真:京谷和幸選手

第2回 遠藤隆行選手
 ~氷上の格闘技に魅せられて~

写真:遠藤隆行選手

第1回 新田佳浩選手、荒井秀樹監督 ~パラリンピックへの熱き思い~
写真:新田佳浩選手写真:荒井秀樹監督


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