二宮清純の視点

二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線

第1回 障害者スポーツの魅力を伝えたい!

~スカパーの挑戦~(1/5)

写真:自らが感じた魅力を伝えたいと障害者スポーツの中継に取り組む田中氏
 未だに国内では福祉やリハビリの一環として捉えられることの多い障害者スポーツ。4年に一度の祭典、パラリンピックの報道さえも、そのほとんどがドキュメンタリーの視点で制作されている。そんな中、スカパーでは2008年から車椅子バスケットボールの中継に取り組み、同競技のスポーツとしての魅力を伝えている。それを積極的に推進してきたのが、執行役員専務で放送事業本部長の田中晃氏だ。同氏は、今後のパラリンピックにおいて車椅子バスケットボールのみならず、さまざまな競技の中継の可能性についても模索している。今回はその田中氏に二宮清純が独占インタビューを敢行した。

二宮: スカパーでは、2008年から車椅子バスケットボールの中継を放送しています。日本では障害者スポーツの試合中継は、これまでほとんど行なわれてきませんでした。その中でスポーツコンテンツに車椅子バスケットボールを取り入れた、そのきっかけは何だったのでしょうか。

田中: スカパーの障害者スポーツ中継には3つの目的があります。1つ目は新しいスポーツコンテンツの開発。2つ目はスカパーのチャレンジングなメッセージの発信。3つ目は社会貢献です。
 その中で、1つ目の新しいスポーツコンテンツの開発が車椅子バスケットボールを中継するきっかけでした。私は長年、スポーツ中継に携わってきましたが、実は以前から障害者スポーツがスポーツコンテンツとして十分に成立し得るほどの魅力をもっていると思っていました。最初にそう思ったのが、1998年の長野パラリンピックでアイススレッジホッケーを見た時です。あまりの激しさに衝撃を受けたと同時に、「これは面白い」と魅了されました。その時点で障害者スポーツにはスポーツとしての魅力が十分にある、と確信したのです。

二宮: 私も長野パラリンピックでアイススレッジホッケーを初めて見たのですが、「これってすごいな」と目を丸くしたことを覚えています。車椅子バスケットボールもそうですが、器具を使って行なわれているので、一般スポーツとはまた違った魅力がありますよね。

田中: そうなんです。車椅子バスケットボールなんかは、車椅子の車輪の音とか、すごい迫力ですよね。

二宮: まるで映画の「ベン・ハー」の中の馬車みたいですよね。ところで、障害者スポーツにもさまざまな競技がありますが、その中で車椅子バスケットボールを採用したのはなぜなのでしょうか?

田中: パラリンピックの正式競技の中で、どの競技がスポーツ中継として成立できるだろうかと考えた時に、その一つが車椅子バスケットボールだったんです。よく調べてみると、バスケットボール特有のスピードやぶつかり合いという競技性としての魅力に加えて、ルールが非常に面白かった。この競技では障害の重さによって各選手にポイントが振り分けられていて、コート内の5人の合計が14点以内と決められているんです。一般のバスケットボールでは基本的には長身の選手がたくさんいた方が有利になりますから、そうしたチーム構成が自由にできますよね。ところが、車椅子バスケットボールではそういうわけにはいかない。障害の軽い選手ばかりでなく、必ず重度の選手も入れなければいけないわけです。ですから、軽度の選手だけでなく、重度の選手がいかに活躍できるかがチームの強さとなるんです。よくスポーツはフェアに、と言われますが、これこそがまさしくフェアなルールじゃないかと思いましたね。これだったら、視聴者にも十分に競技の魅力を伝えることができる、そう確信して車椅子バスケットボールの中継を始めたんです。

中継実現への壁

二宮: これまではどちらかというと、障害者スポーツは福祉やリハビリの一環として見られてきました。ですから、選手に対しても「感動をありがとう」というような同情の視点での報道がほとんどでした。しかし、スカパーでは純粋に競技としての魅力を伝えようとしている。そのコンセプト自体が画期的ですよね。

田中: 障害を乗り越えて頑張っているということは、もちろん素晴らしいことです。しかし、それはもう、いろいろな番組でやってきている。それに、選手自身はスポーツとして扱って欲しいと思っているわけですから、スポーツ中継に携わってきた者としては、ドキュメンタリーではなく、しっかりと競技の魅力を伝えられるような番組にしたいと思ったんです。

二宮: とはいえ、実際に中継するとなると、苦労も多かったのでは?

田中: はい、そう簡単なことではありませんでした。車椅子バスケットボールがスポーツ中継として成り立つと確信はしたものの、しばらくは逡巡していたんです。というのは、どのスポーツもそうであるように、試合のスコアや勝敗だけでは中継は成り立ちません。そこには必ず選手のプロフィールやバックグラウンド、競技にかける思いなどが不可欠になってくる。ですから、車椅子バスケットボール選手のプロフィールにも触れなくてはならないわけです。しかし、彼らは健常者よりも重たいバックグラウンドを持っていますから、そこにウエイトをかけすぎると、ドキュメンタリー番組と同様になってしまうんです。とはいっても、それ無しで中継にはならない。ですから、バランスが非常に難しかった。実況をお願いしたアナウンサーの小川光明さんにも「難しいなぁ」と言われていたんです。自分の中でもなかなか答えが出てこなかったのですが、ある時ふと思ったんです。迷ったら、一切伝えなくていいと。そういうふうに思い切ることができたので、小川さんにも「迷ったら言わなくて結構です」と言いました。その答えが見出せなかったら、未だにやれていなかったでしょうね。

写真:ともに長野パラリンピックで見たアイススレッジホッケーの衝撃が忘れられないという田中氏(左)と二宮清純

(第2回につづく)


<田中晃(たなか・あきら)プロフィール>
1954年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年、日本テレビ放送網株式会社に入社。箱根駅伝や世界陸上、トヨタカップサッカーなど多くのスポーツ中継を指揮した。さらに民放連スポーツ編成部会幹事として、オリンピックやサッカーW杯などの放送を統括。コンテンツ事業推進部長、編成局編成部長、メディア戦略局次長を歴任する。2005年、株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(現・スカパーJSAT株式会社)執行役員常務となり、現在同社執行役員専務、放送事業本部長を務めている。

(構成・斎藤寿子)


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二宮 清純(にのみや せいじゅん)

スポーツジャーナリスト。
1960年、愛媛県生まれ。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開。テレビのスポーツニュースや報道番組のコメンテーターとしても活動中。主な著書に「スポーツ名勝負物語」(講談社現代新書)、「プロ野球の一流たち」(講談社現代新書)など。障害者スポーツでは矢野繁樹、成田真由美、国枝慎吾などのノンフィクションを執筆している。

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