二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2010.11.25
第4回 厳しいチーム運営
~世界を目指せ! シッティングバレーボール~(4/4)
二宮: 真野監督にとってシッティングバレーボールの魅力とは?
真野: まずは健常者も障害者も関係なく、一緒になって楽しむことができるという点ですね。健常者が障害者スポーツを理解するのにいい機会にもなっていると思うんです。そして、これは一般のバレーボールにも言えることですが、みんなで助け合うという競技性に魅力を感じています。みんなで拾って、つないで、打つ。誰がミスをしてもチーム全員でフォローする。バレーボールって人生の縮図みたいなもんじゃないかなと思うんです。
二宮: 真野さんも一緒に練習されるんですか?
真野: はい、しますよ。私自身、バレーボール経験者ではありますが、シッティングバレーボールはそれとは似て非なるものですからね。自分が理解していないのに、選手にアドバイスはできませんから。
二宮: 選手への指導は厳しいんですか?
真野: いえいえ、一度も選手を怒ったことはありません。以前は自分の中では理想の監督像を持っていたんです。威厳があって、選手から怖れられる監督になりたかったんですけどね(笑)。
二宮: それこそ、東京オリンピックで全日本女子を金メダルに導いた大松博文監督のような(笑)。
真野: はい、そうなんです。監督が姿を見せたら、何も言わなくてもすぐに集合して「よろしくお願いします!」なんていうのをイメージしていたのですが。
二宮: それにしても、一度も怒ったことがないというのは驚きですね。何か怒らない理由はあるんですか?
真野: おそらく私自身が怒られるのが嫌だからでしょうね。体育会系の世界では理不尽に怒られることってよくありますけど、やっぱり納得できないんですよ。それがわかっているからだと思います。
運営費あってのチーム強化
二宮: さて、ロンドンパラリンピックまで2年を切りました。今後は本格的にチーム強化を行なっていくと思いますが、相手チームの分析はどのようにしているんですか?
真野: 最近はビデオで細かく動きを分析したりして戦略をたてています。以前は私自身が見たものを頭で覚えて伝えていたのですが、選手たちにはそれを理解することが難しかったようなんです。そこでビデオを使うようになったのですが、映像で見せる方がイメージしやすくなったのではないかと思います。また、今年からは合宿でも全てビデオを撮るようにしました。それをDVDに焼いて、選手全員に渡すんです。自宅に帰ってからも自分たちの動きを見て復習できるようにと。
二宮: そういったことまで真野さんがやっているんですか?
真野: いえ、今では専任のスタッフがいるので、非常に助かっています。でも、合宿や遠征、大会にはほとんど自己負担で参加してもらっているんです。協会としては交通費や宿泊費を出したいという気持ちはあるのですが、何せ選手たちの自己負担の割合も大きいものですから......。
二宮: 遠征や大会に自己負担で行っても、中には試合に出場できない選手も出てくるわけですよね。
真野: はい、そうなんです。以前は国の代表というよりも個人参加という意識が強かったので、40万円も50万円も自分で払って「何で試合に出させてくれないんだ」と不満の声もありました。
二宮: そうは言っても、誰を使う、使わないは監督が決めること。
真野: でも、高いお金を払っているわけですから、選手がそう言いたくなるのもわかるんです。行ったからには試合に出たいっていう気持ちはあるでしょうから。
二宮: 確かに国や協会に出してもらっているなら文句は言えませんけど、選手たちにしてみたら「お金も出してくれないのに、何を言っているんだ」というふうになってしまいがちですよね。
真野: そうなんです。監督としてそれをまとめるのに苦労したこともあります。しかし、今はそういうことはないですね。チームには強い連帯感が生まれていますので、たとえ試合に出場できなくても「自分には自分の役割がある」という気持ちを選手はもってくれています。ですから、控えの選手もチームに貢献していると実感していますし、それを自信にして頑張ってくれているんです。
二宮: しかし、資金的に厳しいというのはわかっていましたが、ここまでとは思いませんでした。
真野: 実際に現地に行ってみると、さらに予期もしない費用がかかったりするんですよ。7月に米国で行なわれた世界選手権には女子チームだけが参加したのですが、交通費と宿泊費で一人50万円近くかかったんです。それで、いざ現地入りしてみたら、予想もしない寒さで全員分のトレーナーを購入しなければいけなかったり、毎日の全員分のドリンクや移動費のほか、エントリー費などで80万円くらいかかってしまったんです。もう、どうしようかと思いましたよ。今後は全額とまでいかなくとも、選手やスタッフの負担を軽減させられるように、協会としての運営費を捻出できるようなシステムをつくりたいと思っています。
二宮: 運営費がある程度ないことにはチーム強化もすすみませんからね。
真野: そうなんです。だからこそ、今年からスポンサーについていただいた日本シグマックス株式会社様をはじめ、支援していただいている各企業様には本当に感謝しています。こうした方々のためにも、ロンドンパラリンピックの切符を必ずとって、メダルに一歩でも近づけるように頑張りたいと思っています。
(おわり)
<真野嘉久(まの・よしひさ)プロフィール>
1965年、大阪府出身。東海大学体育学部社会体育学科卒業。中学から大学までバレーボール部に所属。97年にシッティングバレーと出合い、翌年から日本代表の監督として同競技の普及と選手育成に努めている。2000年シドニー大会、04年アテネ大会では日本男子監督を務め、08年北京大会では日本女子を初めてパラリンピック出場に導いた。日本シッティングバレーボール協会会長。
(構成・斎藤寿子)