二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2010.11.11
第2回 応援者がいてこその監督業
~世界を目指せ! シッティングバレーボール~(2/4)
二宮: 真野さんは監督業だけでなく、日本シッティングバレーボール協会の会長でもありますが、やはり費用の面では苦労も多いのでは?
真野: そうなんです。日本代表の監督とは言っても無報酬ですから、普段はおでん屋を経営しています。しかし、大会や合宿が入ってしまうと、お店を開くことができません。来月も広州2010アジアパラ競技大会に出場するために中国に行きますので、約1カ月、収入がゼロということになるわけです。おでんの季節だけに、経営者としては頭が痛いですね(笑)。
二宮: 日本パラリンピック委員会(JPC)から援助はないのですか?
真野: ないですね。もちろん、選手への強化費や大会に出場するための助成金は申請することによって多少は出してもらえる可能性はありますが、監督への援助というかたちでの助成金はゼロなんです。でも、選手も決して恵まれているわけではありません。来月のアジアパラ競技大会では交通費は出るものの、私たちの競技団体には90万円の負担が課せられるんです。それと、対戦相手の選手と交換するバッチなども40万円ほどかかるのですが、それも全て自分たちで出しているんです。
二宮: 競技用ユニホームも自前ですか?
真野: 支給はされますが、1人1組のみ。とても1組では足りませんから、結局は自分たちで2万円ほど出さなければいけないんです。
二宮: JPCからの年間の助成金はどのくらいなんですか?
真野: その年によって全く違いますね。アテネパラリンピックまではゼロの年もあったくらいなんです。2005年以降は、年間でおよそ70~200万円くらい。これまでの最高は北京パラリンピックの前年で、男子の上海合宿、女子の上海大会があったこともあり、500万円を支援いただいています。
二宮: 競技によっても違うわけですね。
真野: はい。団体競技、個人競技でも違いますが、やはり一番大きいのはパラリンピックでの成績。メダルをとる、とらないではもちろんのこと、入賞ひとつで全く違うんです。
増える一方の自己負担
二宮: でも、年間70万円では正直、何もできないのでは?
真野: そうですね。1回の合宿で終わってしまいます。
二宮: 概算では年間でどのくらいの費用が必要になってくるのでしょう?
真野: シッティングバレーボールでは男女あわせて2000万円くらいかかります。
二宮: 合宿や遠征もありますからね。
真野: JPCも200万円くらいは予算をつけてくれようと努力してくれているんです。でも、そもそもJPCの原資自体が増えていないので、今後も難しそうです。
二宮: 自主財源はどの程度なんですか?
真野: 協会の会員費はあります。とはいっても、1人年間5000円。250人ほどの会員がいますから、100万円くらいですね。それにチーム登録料で20万円くらい。あとは選手やスタッフの自己負担になっています。
二宮: スポンサー企業はついているんでしょうか?
真野: 去年まではありませんでした。日本ではなかなか難しいですよね。それでも今年から医療機器メーカーである日本シグマックス株式会社様が支援してくれています。また私が個人的にお付き合いのある企業も応援してくれるようになりました。私たちとしても、支援していただける企業に少しでもメリットがあるように、最近ではHPを充実させています。
二宮: それだけ苦労されてまでシッティングバレーボールに携わり続けている理由はどこにあるのでしょう?
真野: 何なんでしょうね(笑)。一度踏み入れてしまったからには、という気持ちはあります。次の人に託すにしても、年間2000万円の財源を確保できるようなシステムをつくってからでなければバトンタッチできませんからね。でも、やっぱり応援してくれる人がいるから続けられているんですよ。
(第3回につづく)
<真野嘉久(まの・よしひさ)プロフィール>
1965年、大阪府出身。東海大学体育学部社会体育学科卒業。中学から大学までバレーボール部に所属。97年にシッティングバレーと出合い、翌年から日本代表の監督として同競技の普及と選手育成に努めている。2000年シドニー大会、04年アテネ大会では日本男子監督を務め、08年北京大会では日本女子を初めてパラリンピック出場に導いた。日本シッティングバレーボール協会会長。
(構成・斎藤寿子)