二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2024.12.26
後編 障がいのある人に適性ある競技を!
~適性に早く気付ける社会に~(後編)
二宮清純: 昔は地域のスポーツ少年団が、バランスよくスポーツを提供していました。少年期、私は、冬はサッカー、夏はソフトボールや野球をやっていました。ところが近年は単一種目型が多くを占めています。そうすると人気のある競技に選手や指導者が偏ってしまう懸念が生じます。向き不向きあると思いますが......。
大島伸矢: はい。我々も「複数のスポーツをしましょう」と呼びかけています。「サッカーがうまくなりたければ、違うスポーツもやらないと。サッカーの練習だけをしていたら、サッカー筋力しか成長しないよ」と。中学生になり部活に入ってしまうと、なかなかそれも難しいので、せめて小学生には複数スポーツをして全体の運動能力や筋力を伸ばすようにしよう、怪我もしづらくなると。中学、高校の部活動に入っている学生を見ると、何のスポーツをやっているかだいたいわかる。そのスポーツに必要な筋肉だけが大きくなっているからです。翻って海外の人たちは複数スポーツをする習慣があるので何のスポーツをやっているかわからないくらい、満遍なく筋肉が付いています。
二宮: 米国ではマルチスポーツは当たり前ですからね。日本は未だに"この道一筋"型が多い。
大島: そうですね。もちろん物理的、あるいは経済的な理由で、ひとつの種目に絞らざるを得ないこともある。ただ重要なのは、いかに子どもが夢中になっている時間を多く過ごせるか。個人的には子どもが「辞めたい」と言ったら、辞めさせていいと思うんです。その代わり、次にやりたい競技を見つけたら、そこに向かわせる。親御さんの中には根性を付けるために「辞めるな。頑張れ」と言う人もいますが、無理やりやらせても子どものためにはなりません。「早く終わらないかな」としか考えないので脳も活動しません。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 最近は子どもの運動能力の低下が叫ばれています。その点はどうお考えですか?
大島: その点は私も懸念しています。たとえば今、泳げない子どもが増えているそうです。泳げるのはスイミングスクールに通っている子。泳げる子は全体の2割程度で、残りの8割は泳げないと言われています。また、今年の夏は猛暑で、子どもが外で遊ぶ回数が激減した。渋谷区のある月は、平均2、3回しか外で遊ぶ機会がなかったそうです。
二宮: たった2、3回ですか......。メディアも「不要不急の場合は外に出ないでください」と報じていました。
大島: 事故防止は重要ですが、全てを禁止すると、必然的に障がいのある人たちの遊ぶ機会、スポーツをする機会も減ってしまう。
二宮: 2011年に施行されたスポーツ基本法により、スポーツ権が確立し、障がいの有無に関係なく、誰もがスポーツを楽しむ権利があるにも関わらず、運用レベルの判断で、スポーツをする機会が担保できていないのが現状です。
【パラもヒーロー、ヒロインを】
伊藤: スポーツ測定会を通じ、それぞれに適した競技、種目を選ぶことに繋がる。それに限らず、多くの子どもが体を動かすことの楽しさを知るきっかけにもなりますね。
大島: そうありたいと思っています。スポーツって、楽しいし、体にいいんです。そのことを、我々はもっと伝えていきたいと考えています。楽しくスポーツするためには、そこそこうまくないと楽しめません。DOSA測定会ではその子の能力から、できるスポーツを紹介しています。あとはその中から楽しめるスポーツを選択してもらいたいなと思っています。
伊藤: DOSAではスポーツ能力測定と並行して取り組まれているパラアスリートの支援プログラム「DOSAパラエール」があります。この事業に取り組まれたきっかけは?
大島: 身近な人の子どもに重度の障害があったことが理由です。その知人から苦労した話をいろいろ聞いていたので、他人事とは思えなかった。加えて、自分がアキレス腱を切り、一時期、車椅子生活を余儀なくされました。公共交通機関を利用した時など、エレベーターの場所などハード面と他の人から向けられる視線や態度に"日本は冷たい国だ"と感じたんです。車椅子ユーザーとなったことで、社会課題に気付けた。この先、ケガや病気で、誰もが障がい当事者になる可能性を持っています。障がいのある人に対し、それで少しでも環境を良くするため、DOSAパラエールを始めました。
二宮: 具体的にはどのような支援を?
大島: 個々に達成期限を設け、各々の目標をクリアし続ける限り、設定した費用を援助するという仕組みです。またマネジメント会社と提携し、スポンサーを探すお手伝いもしています。これまで計6人のパラアスリートを支援しました。
伊藤: 最後に、今後に向けてやっていきたいことは?
大島: 正直、やりたいことはいっぱいありますが、その全部に取り組むことはできません。だから私たちがフォーカスしているのは、1人でも多くの障がいのある人に競技団体に所属してもらうことです。各競技団体の登録選手数をデータ化し、測定会で障がいのある子どもに向いている競技や、狙い目の競技を勧めています。パラスポーツのヒーロー、ヒロインが増えれば、それが世の中へのメッセージにもなる。「やってみよう!」という気持ちが生まれます。それによって自分に適した競技に出合えるきっかけになればいいと考えています。
(おわり)
<大島伸矢(おおしま・しんや)プロフィール>
一般社団法人スポーツ能力発見協会理事長。1970年4月10日、福岡県生まれ。大学卒業後に就職・企業を経験した後、07年に能力の精密測定を事業化、知育面で活用するプライム・ラボを設立。14年には一般社団法人スポーツ能力協会(DOSA)を設立し、理事長に就任。プロが使う測定ツールで子どもたちの身体能力を正確に計測し、得意・不得意のスキルを共有して早く「好きで得意なこと」に出会える場を提供する測定プログラム「SOSU」を開発。子どものスポーツ能力の測定や向上をサポートしている。DOSAのアスリート支援プログラム「DOSAパラエール」、リクルートキャリアとのコラボ「障がい者アスリート応援プロジェクト」などパラスポーツの支援も行っている。著書に『子どもが伸びる運命のスポーツとの出会い方』(枻世出版)。
一般社団法人スポーツ能力発見協会
(構成・杉浦泰介)