二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2025.10.09
前編 超高齢社会へのメッセージ
~スポーツとの"掛け算"で広島を発信~(前編)
広島県版のスポーツコミッション「スポーツアクティベーションひろしま」(SAH)は、県内にある様々なスポーツ資源を活用することで、地域活性化を目指している。今年2月にSAHの代表に就任した秦アンディ英之氏は、スポーツ調査会社、Jリーグ特任理事、格闘技団体ONE Championshipの日本法人代表、バスケットボールB.LEAGUEクラブのGMを歴任してきた。その秦氏が描くSAHの今後の展望とは――。
二宮清純: 今回は広島県東京事務所にお邪魔しております。まずSAHの代表に就任した経緯をお聞かせください。
秦アンディ英之: 私自身、これまでいろいろな立場でスポーツを携わってきました。ソニーでは、スポーツに協賛する側として活動を行ったり、日本や北アジアの国々におけるスポーツのスポンサーシップ効果測定のサービスを導入したり、アジアの格闘技団体ONE Championshipの代表として日本大会を開催したり、あとはバスケットボールB.LEAGUEの三遠ネオフェニックスGMも務めてきました。SAHの代表としてのミッションは、広島がたくさんのクラブと協力し、スポーツの価値を活かしながら地域活性化を図ること。それに挑戦できることは魅力的でしたし、私自身の経験値を生かせるとも思い、代表就任のお話を引き受けました。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): SAHには、日本初の障がい者サッカークラブとして2013年に設立したアフィーレ広島が加入しています。自治体のスポーツコミッションにパラスポーツチームや団体が加盟しているのは珍しいことです。
二宮: 広島県は元々パラスポーツが盛んだったのでしょうか?
秦: パラスポーツに対する行政の支援を含め、下地があります。パラスポーツに対し、理解のある県であり、地域としてもすごく熱心に取り組んでいます。
二宮: 就任して間もないですが、現状の課題は?
秦: 一番は認知拡大ですね。まだまだSAHの存在は全国に知られていないので、広島の素晴らしさ、広島にあるスポーツチームの魅力をより多くの人に知っていただきたい。SAH内のスポーツチームを応援していくことも大事ですが、それぞれの競技における"展開していく力"にも期待しています。
二宮: その"展開していく力"とは?
秦: 例えば、高齢者にウォーキングサッカー(ウォーキングフットボール)を経験していただくと、全体を見渡すプレーをすることで視野が広がったり、体を動かすことで健康促進に繋がる。パラスポーツ推進には、障がいのある人がスポーツを楽しむ場を増やすという測面だけでなく、超高齢社会に向けた大事なメッセージも含んでいると思っています。
【日本と世界を繋ぐ架け橋に】
二宮: 今、お話しに出たウォーキングサッカーはその名の通り歩いて行うサッカーです。発祥はイギリス。運動予防医療として注目され、日本でも徐々に盛んになってきていますね。
秦: ウォーキングサッカーを通じ、人が集まることによってコミュニティ形成にも繋がります。障がいの有無はもちろんですが、年齢も関係なく楽しめるスポーツです。いろいろな世代を超えた交流にも繋がると感じています。
伊藤: おっしゃるように障がいのある人だけに向けたスポーツというよりも、誰もが楽しめるという点が重要です。
秦: そうですね。その視点は重要です。例えばパラアスリートをスーパーヒューマン(超人)と呼ぶことがありますが、これはパフォーマンスのすごさのみならず、逆境に立ち向かう精神力の強さを称えてのものです。パラスポーツは多様性への理解、共生社会実現に寄与する力もあると思っています。
二宮: また広島は平和都市として、世界的にも知名度が高い。その広島から発信するというのは、非常に意義のあることですよね。
秦: そう思います。広島のまちやSAHの活動を知ってもらう手段として、スポーツが世界と日本を繋ぐ架け橋となる。広島ではプロ野球のカープ、サッカーのサンフレッチェをはじめとする、トップスポーツチームが活動しています。私は幼少期、アメリカで過ごしましたが、広島には世界に誇れる価値が眠っていると信じています。
伊藤: その魅力を、SAHの活動を通じて発信していくのですね。
秦: おっしゃる通りです。広島は地域社会でスポーツが成り立ち、スポーツ熱は高い。ここで、スポーツを様々な業種と掛け算することで、さらなる活性化を図れると考えています。SAHとしても、その可能性を広げ、広島からたくさんのわくわくを、日本中に提供できる取り組みを進めていきたいと考えています。
(後編につづく)
<秦アンディ英之(はた・あんでぃ・ひでゆき)プロフィール>
スポーツアクティベーションひろしま代表。1972年、ベネズエラ出身。1996年明治大学法学部卒業後、スポーツ専門の調査コンサルティング会社の日本法人代表取締役、アジア格闘技団体ONE チャンピオンシップの日本法人代表取締役、サッカーJリーグ特任理事、バスケットボールB.LEAGUE三遠ネオフェニックス国際部門バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーを務めた。今年2月からスポーツアクティベーションひろしまの代表に就いた。大学時代はアメリカンフットボール部に所属し、東西学生オールスター戦の関東代表選手に選出された。大学卒業後、アメリカンフットボールの名門アサヒビールシルバースターに入団し、社会人選手権や日本一を決めるライスボウル(日本選手権)で優勝を経験した。
協力 広島県東京事務所
(構成・杉浦泰介)