二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2011.10.13
第2回 格闘技なみの激しさ
~サッカーに魅せられて~(2/4)
二宮: ブラインドサッカーは屋外スポーツですから、当然、雨に降られることもありますよね。そういう場合、ピッチのどこの部分がぬかるんでいるかなどはどのようにして確認するのでしょう?
石井: 既に試合前に雨が降っていれば、事前にピッチを歩いて確認し、どこが滑るのかを覚えるようにしています。
二宮: 足裏の感覚を脳裏に焼き付けておくと?
石井: はい、そうです。試合中に雨が降ってきた場合は、ぬかるんでいるところにボールがいくと止まるので、音が急に消えたりすると「あ、ここに水たまりができているんだな」というふうに判断することができます。
二宮: これまで滑ってケガをしたことは?
石井: 僕自身は捻挫くらいはありますが、大きなケガはないですね。ただ、ピッチの状態でというよりも、ブラインドサッカー自体がコンタクトスポーツですから、しょっちゅう相手とぶつかります。僕もよく顔面を切ったりしていますよ。
二宮: まるで格闘技ですね。勢い余って正面衝突することもあるのでは?
石井: 衝突防止のために、ディフェンス側は必ず「Voy(ボイ)」という言葉を発しながら相手に近づくことが義務付けられているんです。「Voy」はスペイン語で「行くぞ」という意味。この言葉を発しないと「ノースピーキング」というファウルが科されます。
二宮: 石井さんをモデルにした本『サッカーボールの音が聞こえる』(平山譲著・新潮社)に書かれてありましたが、初めての国際親善試合で韓国に行かれた時、日本代表は「まいど」と言っていたそうですね(笑)。
石井: はい、そうなんです(笑)。当時は自分たちで何というか自由に決めてよかったんです。みんなで「何にしようか」と相談したところ、日本視覚障害者サッカー協会(JBFA)の前身の「音で蹴るもうひとつのワールドカップ実行委員会」の発足が関西だったということもあって「『まいど』にしよう」と。
二宮: 「まいど」「まいど」と言いながら、相手に近づいていったわけですよね(笑)。
石井: はい。韓国人選手は何のことやらわからなかったでしょうけどね(笑)。
芝よりもコンクリートが好評!?
二宮: ブラインドサッカーのピッチは天然芝と人工芝とどちらが適しているのでしょう?
石井: 天然芝でも人工芝でも、どちらでも問題はないのですが、ほとんどの選手が人工芝を希望しますね。
二宮: 一般的に野球でもサッカーでも天然芝の方がいいと言われています。なぜ、ブラインドサッカーでは人工芝を希望するのでしょう?
石井: 天然芝はすぐにボールが止まってしまうんです。そのため、やりにくいという選手が多いんですね。もちろん、どちらも関係ないという選手もいます。
二宮: なるほど。ボールが止まってしまえば、音が聞こえなくなりますからね。人工芝の方がボールが滑るからいいわけですね。
石井: そうなんです。海外ではコンクリート上でやっているところもあるくらいです。
二宮: コンクリート!? それはすごい。でも、ケガをしやすいのでは?
石井: 確かに手をついて骨折する危険性はありますね。ただ、世界のトップ選手の間では「コンクリートの方がボールの音が聞こえやすい」と言われているんです。それだけブラインドサッカーはどこでもできるということ。どんなピッチであろうと、自由にボールを追いかけられるのが、ブラインドサッカーの魅力のひとつなんです。
(第3回につづく)
<石井宏幸(いしい・ひろゆき)プロフィール>
1972年4月20日、神奈川県生まれ。小学1年からサッカーを始めるも、中学2年で喘息を患い、静養を余儀なくされる。19歳の時、白内障で右目の視力を失い、28歳の時には緑内障で左目の視力を失い、全盲となる。1年半後、神戸で行なわれた講習会に参加したことをきっかけにブラインドサッカーを始める。同年5月には日本初の国際試合に出場し、韓国と対戦した。2002年、日本視覚障害者サッカー協会(現・日本ブラインドサッカー協会)が発足し、理事に就任。04年からは同協会副理事長を務める。
(構成・斎藤寿子)